受験という難関を前にして、私は受験とは違うことで頭を埋め尽くしていた。自分の両親が両親じゃなくて、自分の兄弟が兄弟じゃないと知ったのは二年も前のことだ。天と地がひっくり返ることはないというのに、自分の家族が家族でないということが有り得るなんて、なんでだろう。

「あんたは、私らの子やで」

 お母さんが二年前に言った言葉は今でも鮮明に思い出せる。私は、改めて言葉にしないと、お父さんとお母さんの子どもではいられない子どもらしい。謙也にも、その下の弟にもそんな言葉をかけているところなんて見たことない。なんてひねくれた考えだと自分でも思うが、でも、どうしあがいたって私は二人の子どもになることはできないのだろうとこのとき思った。

「お父さん、お母さん」

 自分から二人に話しかけるなんて、いつぶりだろうか。二人は僅かに目を見開き、そして、柔和に微笑んだ。

「どないした?」
「あんな、私、関東の高校受けたいん。……あ、ちゃうねんで! 家にいにくいとかちゃうくて……いや、本音いうと、いにくいん。やけど、この家から離れたいから関東に行きたいんとちゃうねん。私な、また、自分がほんまの子どもやないって知る前みたいに、二人に甘えたい。やって、私の両親は、お父さんとお母さんしかおらんから。――けど、今のままやとあかんと思うん。やから、少し距離を開けて、考えたい」

 それから私が関東に降り立ったのは、半年後のことだ。

130314
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