4 謙也がトイレというので財前クンと二人きりになってしまった。気まずい思いで足元に視線を落としているも、ゆっくり深呼吸をしてから顔を上げる。 「財前クン、謙也に姉がいるって知ったん、ほんまに今日が初めて?」 「? こないなことで嘘吐いてもしゃあないやろ。弟がおるんは知ってますけど、姉いうんは初耳です」 「そっか……」 「ヘンリーさん、謙也さんと仲が悪いんですか? ……それにしては、和気あいあいと話しとったけど」 財前クンの言葉にすぐ返答をすることができなくてまた視線を落とすも、トイレから謙也が帰ってくる様子のないことを確認してから財前クンに目を向ける。 「あんな、私と謙也、ほんまもんの家族とちゃうねん。私は、忍足家の血がこれっぽっちも入ってへん。……やから、姉やって言いたくないんかな」 ふう、と吐き出した息を目視することができたならきっと汚い色なんだろうなとどうでもいいことを考えていると、体が温もりに包まれる。いつからそこにいて、いつから私の話を聞いていたのかはわからないけれど、縋るように私を抱き締める謙也が「姉ちゃん、姉ちゃん」と何度も呼ぶものだから、ぽろぽろと涙が零れだした。私、あなたの姉でいてもいいのかな? 130311 目次/しおりを挟む [top] |