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 私の弁当箱が空になっても口を噤んでいる幸村を心配して声をかけた。いつもより表情を曇らせる幸村を見ていたくなくて、正直に全てを話したのはその数分後だ。

「いつも朝は、四階の一番西にある教室に一人でいるんだけど……今日はその教室に人が来て、だから、自分の教室にずっといた」
「四階の一番西にある教室……? なんで、そんなところに?」
「……えっと、その、」
「俺には、言えないこと?」

 へなりと眉を下げた幸村に、首を左右に振る。

「違うけど……」
「けど?」
「〜っ……その教室だと、テニスコートがよく、見えて……それで、その、」
「俺を、見ていてくれたんだ?」

 声のトーンが明るくなった幸村に、頬が赤くなる。首だけで肯定をすると、彼は表情も明るくして私を抱き締めた。
 遠慮がちに彼の背中に腕を回し、肩に顔を埋めると「うん、わかってる」と幸村がいつもの調子で言うので、胸に安心が広がる。
 彼の一挙一動を気にしすぎる自分に呆れるも、鼻腔を擽る幸村の香りになにも考えられなくなっていく。私はこれからも幸村が中心の世界で生きていくんだろうなと思い、そして、それを受け入れている自分が嫌いではなかった。

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