エースがわたしの教育係に決まり朝から夜までずっと一緒に過ごしている。夜にお腹が空いて起きてもエースが起きてくれることは当然のようになく、寝床にミルクを置いてもらい自分でミルクを飲んでおり、今日もんぐんぐとミルクを飲んでいると(船にほ乳瓶はなく、コップでミルクを飲んでみせるとみんな驚いていた)、エースの部屋の扉が開かれた。こんな時間に誰だろうと首を動かすと、コップを奪われ体を抱き上げられる。

「またエースのやつはヘンリーを放置してんのかよぃ。ヘンリーもよくこんなやつに懐いてやがる」

 コップを口元に運んでくれるのは、たしか、マルコという名前の鳥男だ。
 エースは、夜の世話こそしてくれないものの、わたしをとても可愛がってくれている。そう伝えようとして、けれど止めたのは、マルコの目がとても優しかったからだ。ママとパパがわたしを見るときと同じ目をしているマルコを見ていたら無性にパパとママに会いたくなり、朝になったらエースに頼んでみようと空になったグラスから口を離し目を閉じた。



 パパとママに会いたいと言っただけなのにエースは頑なに首を縦に振らない。エースのことは好きだけど、それ以上にママとパパに会いたかった。だから体を宙に浮かばせて一人で会いに行こうとすると、エースに捕まえられる。どんなに頼んでも大声で泣きわめいてもエースはわたしを離してくれることはなく、エースが大嫌いになった。

「あう、えっ……まぁま! ぱぱ!」

 両手両足を動かして駄々をこね、一日中ご飯も食べずに訴え続けていたせいで喉がカラカラになった。エースが何度もミルクを飲ませようとしてきたけれどこれっぽっちも食べる気にならない。エースだけでなくナースや他の人たちも食事をするように説得してきたがどれも受け入れることのなかったわたしは、もう一人のパパの前までむりやり連れてこられた。グララララ、と笑うパパはパパだけれど、パパとは違う。

「娘よ、そんなに泣くな」
「ぱぁぱ……っまーま!」
「グララララ、言葉を喋る余裕もないのか」

 大きいパパの腕に抱えられたわたしは涙が枯れるまで大泣きをし、そのまま疲れ果てて眠ってしまった。次の日目を覚ますと頭に鈍い痛みが走り、目の周りが重たい。泣きすぎたせいだと瞼を擦ろうとして、誰かに手を拘束されていることに気づく。その手を振り払う気にならなかったのは目を真っ赤にしたエースが縋るようにわたしの手を握っていたからだ。わたしはエースを大嫌いだと言ったのに、エースはずっとわたしの傍にいてくれたのだろうか。

『エース、ありがとう、大好き』

 エースのほっぺたにキスをする。それがわたしの最後の言葉になった。

130225
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