ティーチという男を探すと言ってエースが船を飛び出した。そんなエースに私はついてきたのだが、エースは私がついてきたことを歓迎していないようだ。首にピッタリとくっつく私を面白くなさそうに見たエースにデコピンされる。

「ったく。いつ俺の荷物に紛れたんだ」
「だって……エースとあえないのいや。とってもさびしい」
「……しょうがねーな」

 私の背中に腕を回したエースは渋々といったように私を許し、なにかあったときは迷わず逃げるよう言い聞かせた。

「ヘンリーが一緒なら野宿はできねえな。今日の宿はどうすっかなー」
「わたし、のじゅくでもだいじょうぶよ」
「駄目だ。女なんだから風呂だって入りたいだろ?」

 わしわし頭を撫で回すエースの言葉に驚く。エースが私を女扱いするなんて初めてではないだろうか。結局その数日後には野宿を経験することになったが、エースの気遣いもあって初めての旅はなかなか順調に進んでいた。

「エース、あついのにどうしてたくさんふくをきるの?」
「暑いからだ。直接陽に当たると火傷しちまうぜ」
「ふーん」

 食い逃げばかり繰り返しているエースが珍しくお金を払って買ってくれた服に着替えていく。着替えが終わる頃にはエースがどこかにいってしまい、慌ててエースを探し回り、そう遠くない場所から聞こえてきた声に急いで足を向ける。ストライカーに乗ったエースを見つけ安堵するも、エースが楽しげに話している人物は誰だろうか。

「お、ヘンリー! ちゃんと服着れてるな」
「うん。エースいなくなったからおどろいた」
「悪い悪い」

「エース、誰だそいつ?」
「おお、コイツはヘンリー。ヘンリー、こっちは俺の弟のルフィだ」

 ニカッと笑い「よろしく、ヘンリー」と言ったルフィにお辞儀をして挨拶をするとオレンジ色の髪をした女の人に頭を撫で回された。パチパチ瞬きをすると「アンタ、小さいくせに礼儀正しいわね。ルフィとは大違いだわ」とルフィを睨みつける。
 人懐っこいのは長所じゃないかしら、と初対面の私に馴れ馴れしく話しかけるルフィをうかがいながら言うとオレンジ女はさらに驚いたように目を瞬かせる。

「アンタ、何歳?」
「ことしで、にさいよ」

「「「二歳!?」」」

 大きな声を出すものだから思わずたじろぐとオレンジ女の手に頬を挟まれる。ジロジロ私を見たオレンジ女は暫くして納得したように頷いた。

「ここはグランドラインだもの……二歳児が二歳児らしくなくてもおかしくないわ」

 自分に言い聞かせるように呟いた彼女を見てクスクス笑うと、もっと変な顔をされた。

「ヘンリー、こっちにこい」
「うん」

「「「ちょ……えええー!」」」

 ストライカーに乗っているエースのもとまで体を浮かせると、四方から指をさされ、思わず怯む。ひしっとエースの首に抱きつくと、エースは軽く笑って私の不思議な力について説明した。

「他にはなにかできるのか?」
「んー、さいきん、じかんをもどすこともできるようになったわ」
「時間を戻す?」

 不思議そうに首を傾げる鼻男の目の前でお金を小さく千切っていき(オレンジ女が信じられないというように目を丸くしている)、それをもとに戻してみせると拍手をされた。エースにもこの能力のことは話していないので驚いていたが、彼はすぐに楽しそうに笑う。

「じゃあ、食った肉を元に戻すこともできんのか?」
「できるけど、おなかのなかのおにくもなくなるわよ」
「?」
「面白いわね。ねえ、こんなことはできるのかしら」

 ルフィを押しのけたオレンジ女が私の目の前に立つ。

「例えば紙幣を半分にして……片方をA、もう片方をBとしとするわよ。Aの紙幣をもとに戻すとき、Bが必要なのかしら?」
「Bがあれば、もどすことはかのうよ。でも、ひつようではない。じかんをもどすのとはべつののうりょくをつかうの。だいようのうりょく、っていうのがいいかしら」
「代用能力?」
「うん。そのなのとおり、だいようをするの。Bとおなじしざい……つまり、紙幣のげんりょうがあれば、それをだいようとしてふくげんすることができるわ」

 そう言い終える前にオレンジ女は私の手を握り締める。目を輝かせる彼女が紙幣を増やしてくれと頼むも「せいぞうばんごうがぜんぶおなじになるわよ」と言うと絶望したような顔をされた。

「代用能力を使えば、再生なんてまどろっこしいことをしなくても、資源を元になんでも生み出せるんじゃないのか?」
「うーん……そうなると、わたしのイメージりょくにいぞんすることになるの。よほどせいこうにイメージできることでないと、むりね」

 眉を下げる私にルフィが「よくわかんねーけどすげえ!」と言い、なんとなく嬉しかった。

130407
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