最終話 闇の勢力が復活し、ダンブルドアのいないホグワーツにいるのは危ないと両親に連れ帰られたのはだいぶ前のことだ。なんとか学校に戻ろうと試行錯誤したのだが両親の目から逃げることができず、こっそり文通をするのがやっとだった。 「ヘンリーは、変わったわ」 「え?」 「前までのヘンリーだったらパパとママに逆らうことなんてしなかったもの。小さい頃から手がかからない子だったって二人とも言っていたわ」 「……友だちが頑張っているのよ。命をかけて。それなのに自分だけ安全なところにいるなんて我慢できないわ」 拳を握り締めると爪が手のひらに食い込んだ。手の痛みより胸の苦しさの方が勝り目頭が熱くなってくる。そんな私の手のひらに温もりが重ねられ、弾けるようにして顔を上げると随分と大人びた顔をしたパドマがそこにいた。 寮が離れ、一緒に過ごす時間が減ったことは私たち姉妹にとてもいい影響を与えた。近いときには見えなかったお互いのよさを見つけることができたのだ。 「ふふ。お姉ちゃんがこんなに頑張っているなら、妹として見過ごすわけにはいかないわね」 「え?」 「一人では駄目でも二人でなら、家を抜け出せるかもしれないでしょう?」 「! ……うん、そうね。パドマがいれば百人力だわ」 パドマの手を握り返すと彼女はすでに出かける用意はできていると微笑み、私たちは二人で家を飛び出した。私たちの後ろ姿を両親が見送っているなんて知らずに。 ――まさかホグワーツが決戦の舞台になるなんて。 緑や赤の閃光が飛び交う闘いの中で私も杖を振り回していた。ホグワーツに到着してから合流したフレッドと背中合わせで呪文を唱える。喉が嗄れても魔法を使うことは止めず必死に闘った。 だけどやっぱり、私はこの場にくるべきではなかったのかもしれない。 「ヘンリー、どうした?」 「っ……あ、あ……ああぁあっ……フレッド、どうしようっ」 「おい、落ち着け。どうしたんだヘンリー」 「パドマが、パドマが……っ死んでしまったわ!」 目の前に彼女はいないが、直感が告げていた。死因なんてわからないけど、パドマはこの世から消えてしまったのだ。もう、二度と会えないのだ。 私が攻撃の手を休めても敵が止まることはなく、私に向かってくる閃光をフレッドが撃ち落とす。涙腺が決壊したかのように涙があふれ、呪文を唱えることができない。 「う、ううぅうっ……ひっ、く」 「ヘンリー、お前は避難しろ! その状態じゃもう闘えない!」 「ぅくっ……パドマっ……!」 「早く! 行くんだ!」 体の半分をごっそり抉られた気分だった。指を動かすことすら難しく、けれどこのまま突っ立っていれば足手まといだということも理解している。 戻るようにと背中を押すフレッドの手を振り払い一歩前に出た私は、ローブで顔を拭い杖を構えた。次に涙が零れ落ちてくることはなく、迷いなく呪文を唱えると死喰い人を一人、二人、三人……次々になぎ倒していく。 始めは呆気にとられていたフレッドも顔つきを変えて私の隣に並び、応戦している。 「やるじゃんか!」 「パドマの、仇敵だもの!」 「ああ……絶対に勝とうな!」 喧騒に紛れてしまうため大声で会話をしていたのだが、視界の端に映った光景にドクリと心臓が脈打つ。 フレッドに向かい真っ直ぐに飛んでくる死の呪文に気づいているのは私だけで、慌てて相殺しようとしたのだが上から落ちてきた瓦礫が利き手の甲に当たった。 杖を落とすことはなかったが杖を振り上げていたらフレッドが死んでしまうことを理解してしまい、とっさに彼の体を突き飛ばす。フレッドという標的を見失った閃光が私の体を貫く前に一つの呪文を唱えた。 ディフェンド 杖先を自分ではなく、彼に向けて唱えた。 130118 目次/しおりを挟む [top] |