四年生

 話がしたいと呼び出された回数は両手で数え切れないほどだ。新しい体は端正な顔立ちをしていてとても人気があり、ダンスパーティーが行われるとわかってからひっきりなしに誘われていた。
 誰かとダンスパーティーの約束をしているわけではないけれど、ろくに話したことのない人とパーティーに行って上手くやれる自信はなく、ラベンダーの腕にへばりついて呼び出し自体を断っている。

「もう嫌……クリスマスは家に帰ろうかしら」
「なにを言っているの。一緒にドレスを着ましょうよ」
「ラベンダーはもうパートナーが決まっているから羨ましいわ」
「あなたの場合、誘いを断りまくってるせいじゃない。……ねえヘンリー、本当は誰か誘って欲しい人がいるのでしょう?」
「…………」
「私たちの間に隠し事なんて、なしよ」
「……、……」
「ふふ、いるのね?」
「ん……んん、まあ」

 私の返事にラベンダーの顔は花が咲いたかのように明るくなり、恥ずかしさから頬がピンク色になる。楽しそうに質問を繰り返すラベンダーに戸惑い視線を彷徨わせていると突如背中に重みを感じ、驚いて顔を上げると赤が視界に飛び込んだ。
 のしかかってきた犯人はウィーズリーの双子の片割れで、こんなことをするのはフレッドだろう。ニヤニヤ笑う彼は首に腕を回してくる。羽交い締めのような格好に眉を寄せても彼が離れる様子はない。

「まだダンスパーティーの相手が決まっていないんだって?」
「…………」
「一緒に行きたい相手って、誰?」
「…………」
「僕が誘っても、断られるか?」
「…………」

 嫌な質問を繰り返すフレッドにどう答えればいいのかわからず顔を伏せると、耳に彼の唇が近づいた。

「僕とダンスパーティーに行って欲しい」

 ずっと、聞きたかった言葉だ。
 もう誘ってはくれないのだと諦めていたからよりいっそう嬉しいはずの言葉だが、ふと違和感に振り返る。相変わらず彼はニヤニヤ笑っていた。

「……馬鹿。アホ、おたんこなす」

 思いつく限りの罵倒を並べ、深く溜息を吐いた。

「……ふっ、はは、残念。騙し通せなかったか」

 茶目っ気たっぷりにウインクをしたフレッドの双子の弟に拳をぶつけると、彼は大袈裟に痛がり肖像画から出て行ってしまう。

 それから数分も経たずにウィーズリーの双子が並んで寮に帰ってきて、よくのうのうと帰ってこれたなと彼らを睨みつけると一人はニヤリと笑い一人は不思議そうな顔をする。どうやら二人で仕組んだことではなくジョージ個人の企みだったらしい。

「なに睨んでるんだよ」
「隣の方に聞いてみたらいかが?」
「? おいジョージ、なにをしたんだよ」
「別に、なにも。それよりフレッド、ヘンリーはまだダンスパーティーのパートナーが決まってないらしいぜ」

 余計なことを言うジョージを睨んでも効果はなく、キョトンとしているフレッドの顔が見れなくなって顔を逸らすとクスクス笑うラベンダーと視線が絡んだ。

「なにを笑っているのよ、ラベンダー」
「べっつにー。ただ今日はヘンリーの新しい表情をたくさん見れたから嬉しくて」
「もうっ……そんなにじっと見ないで」

 いたたまれない気持ちで机に顔を伏せると頭に大きな手のひらが乗る。覚えのあるその感触に恐る恐る顔を上げるとラベンダーの座っていたはずの椅子にフレッドが座っていて、いつの間にかラベンダーとジョージは消えていた。

「なあヘンリー」
「……なあに?」
「君さえよければ……ダンスパーティーに僕と行かないか?」

 フレッドにしては珍しく自信のない声を出すので彼は本当にフレッドなのだろうかと疑ったが、真剣な瞳をしている彼が偽物になんて見えず首を縦に振るとフレッドは、はにかむように笑う。
 楽しみにしてるよと言葉を残して男子寮に続く階段を上っていくフレッドは本当に本物なのだろうかとまた疑り、不安な気持ちで当日を迎えた。

 柔らかな赤い色のドレスに身をまとい、ラベンダーとお互いの髪を弄り合っていたらあっという間にダンスパーティーの時間は近づいて慌てながらもしっかりとメイクをすると、ラベンダーとハーマイオニーとお揃いで買ったペンダントを首につけた。

「フレッド、お待たせ」

 待ち合わせ場所に先に着いていたフレッドに駆け寄ると彼は僅かに目を見開いてからニヤリと笑う。黒いドレスローブを身につけたフレッドはいつもよりスマートに見えた。

「その服、素敵ね」
「おいおい、素敵なのは服だけか?」
「ふふ、どうかしら? それより私のドレスはどう?」
「ドレスは、素敵さ」

 意地悪く笑うフレッドの腕を叩くとその手を掴まれる。自分の手のひらに私の手を乗せたフレッドは胸を張ってエスコートをしてくれ、とても素敵な一夜を過ごした。

130115
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