三年生

 悪魔にとりつかれたかのように占い学という教科に夢中になった。トレローニー先生のいる北の塔に熱心に通い、教えを請い、周りになんと言われようと通うことを止めはしなかった。
 そんな私を一番心配してくれたのはウィーズリーの双子の片割れフレッド・ウィーズリーで、占い学に心酔しきっている私の頬を力一杯ひっぱたいた。あまりの痛さに涙が浮かび、それでも耳を傾けない私に彼は言う。

「君は何に怯えているんだ?」
「怯える? 私が? ……なにに怯えるのよ」
「去年ジニーが連れさらわれたと知ったときの僕と同じ目をしている」
「……そんなことないわ」
「あのとき君は僕に光をくれた。だから今度は僕が君に、」
「いい加減にしてちょうだい」

 人があふれる談話室で声を張り上げることはしなかったが無意識に手の中にある紙を握りつぶしていた。
 過剰に反応してしまうのは彼の言っていることが図星だからであり――、一度“死”を経験した私にとって死ぬということはとても恐ろしいことだった。ううん、死ぬこと自体を怖がっているのではなく突然訪れる“死”を恐れているのだ。なんとか自分の死期を知りたくて占い学にすがりついている私は滑稽だろうか。

 理不尽な怒りをぶつけた私を叱るでもなく見捨てるでもなくフレッドの大きな手が私の頭を優しく撫でる。周りに会話が聞こえないよう談話室の隅に私を導いたフレッドは(本当は人のいない場所に行こうとしたようだがシリウス・ブラックのせいで寮から出ることは許されない)、できるだけ優しく問いかけた。

「私、……死ぬことがとても怖い」
「うん」
「だって、死んでしまったらお礼を言うこともできないのよ。パパとママに生んでくれてありがとうって、育ててくれてありがとうって伝えることもできない。友だちに、仲よくしてくれてありがとうって伝えることもできない、……とっても怖いわ」
「うん」
「…………」
「…………」
「…………」
「……っふ。うん、そっか。ヘンリーはヘンリーだ」

 フレッドの二本の腕が背中に回り体が強張る。人目のある場所でなにをするのだと睨んでも彼が離れていく様子はなく一つ溜め息を吐くとフレッドの肩に顎を乗せた。

「馬鹿にしてるでしょう?」
「してない、してない」
「本当かしら……あなたはいつも子ども扱いしてくるわ」
「してないしてない」
「…………」

 眉を寄せて睨んでも相変わらず効果はなく、ようやく体を離したフレッドが髪をかき混ぜるように撫で回してくる。ニヤリと笑う彼の考えていることを理解することなどできないが、知らずうちに口元が緩んだ。

130113
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