二年生

 今年はとてもおかしな年だった。生徒が石にされるだなんてホグワーツの歴史にも載っていない異常事態が起きたのだ。――それだけならただ怯えるだけですんだのかもしれない。でも、ルームメイトであり友人のハーマイオニーがターゲットになったと聞いて落ち着いていられるわけがなかった。

「ねえ、ハリー、ロン。私ね、調べてみたの」
「?」
「あなたたちが秘密の部屋について調べていることは知っているわ。だから私、」
「「え!?」」

 言葉を遮るように驚きの声を上げた二人は慌てて周りに誰もいないかを確認した。人がいないことは確認済みだと言うと二人は肩を下ろすも、私の言ったことを思い出してまた体を固くする。

「汚名を着せられているハリーが秘密の部屋を調べることは間違っていないと思うから、先生方には言っていないしこれからも言うつもりもないわ。……本当はね、これからも傍観していたかった。傍観しているつもりだった。だって、下手をすれば命を落とすのよ? 私はハリーやロンみたいに勇敢じゃない。……でも、大切な友だちが被害にあったと聞いたら別よ。犯人をとっちめてやらないと」

 パチンとウインクをすると呆気にとられていた二人がようやく事態を理解したように目を丸くして、疑うように何度も質問を繰り返していたが一通り尋問し終えると今度こそ安堵したように息を吐き出した。
 彼らとお互いの情報を共有し、秘密の部屋を見つけ犯人をとっちめるという作戦は順調に進んでいたかのようにみえたが――

「ジニーが、さらわれた?」

 マクゴナガル先生が告げた言葉が信じられなくて泣くことさえもできなかった。いつも陽気なウィーズリーの双子でさえもこの残酷な知らせに顔を青くしている。グリフィンドールの談話室は通夜のようにじんめりした。
 荷造りをしなさいという寮監の言葉に談話室にいた生徒たちは各々の部屋に戻っていく。ラベンダーに腕を引かれ私も足を動かそうとしたのだけれど床に根が生えたかのように足は動かず、先に部屋に戻っていて欲しいと彼女の背中を押した。
 椅子に座ることもできずただ二本の足で突っ立っていると、まだ部屋に人影があることに気づく。赤毛の彼はウィーズリーの双子の片割れで、彼がフレッドかジョージか判断することはできなかったが、一瞬で憔悴した彼を心配して声をかけるとウィーズリーは二つの綺麗な瞳から大粒の涙を零した。

「ジニーと……もう会えないなんて嘘だよな」

 ウィーズリーのこんな弱々しい声を聞いたのは初めてだ。触れたら崩れてしまいそうなほど弱りきった彼を慰める方法はわからなかったが、このまま彼を部屋に返したらいけないということはわかった。

「ねえウィーズリー、ジニーが心配?」
「っ当たり前だろ!」
「……そう。なら、探しにいきましょう」
「え?」
「心当たりがあるの。死ぬのが怖いなら無理にとは言わないけど、一緒に来る?」

 差し出した右手に温もりが重なるまで時間はかからなかった。見回りをしている先生に見つからないよう苦労していたら予想以上に時間がかかってしまったが、嘆きのマートルのトイレに無事たどり着くと、なにやら様子がおかしいことに気づく。手洗い台のあるべき場所に、丸い大きな穴がある。人一人が余裕で滑り込めるだろう。

「ここに、ジニーが?」
「恐らく。……もう、ハリーたちは行ってしまったのかもしれないわ」
「え?」
「ううん、なんでもない。私が先に行くわよ」

 ポケットから取り出した飴玉をパイプの中に転がしても中の状況を理解することはできず、迷うことなくパイプに体を滑らせる。
 慌てたようにウィーズリーが伸ばした腕が私の体を掴み彼と一緒にダイブしたのは予想外だったが、怪我一つなく着地をすることができた。

「……っ! 危ないだろ!」
「……?」
「ったく、こういうのは男が先に行くもんだ」
「でも、先になにがあるかわからなかったから……」
「だからこそだ。ヘンリーになにかあったらどうするんだよ」

 鋭い目つきで睨んでくるウィーズリーの言葉に胸が高鳴った。顔が熱を持ちそうになり慌てて彼から離れると奥を目指して足を進める。
 ロンとロックハート先生と合流してからそう時間が経たないうちにハリーがジニーを連れて戻ってきたので私が駆けつけた意味などなかったのかもしれないが、ジニーを抱き締めるウィーズリーの顔を見たら薄暗いパイプに突撃した甲斐があったというものだろう。

130111
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