一年生

 死んだと思ったら、生まれていた。

 偶然が重なった事故で瀕死の状態に追い込まれ、ああ死んでしまうのかと目を閉じた瞬間新しい母親の股から生まれ落ちたのだ。
 いわゆる前世の記憶を持って生まれた私が同年代の子どもたちと同じように振る舞うことは難しく、それでも怪しまれないようにと努力を続けた結果“物静かな少女”という印象を家族に植えつけてしまったらしい。双子の妹であるパドマ・パチルも例外なく私を“おとなしい姉”と認識しているらしく、ホグワーツ特許で出会った双子のウィーズリー兄弟に「ヘンリーは口下手だけど、とってもいい子なのよ」だなんて言っていた。

 正直、パドマの隣は窮屈だった。
 パドマは双子の“妹”と言われることを嫌っており、自分の方が大人であるということをことあるごとに主張してくる。そんなことをしても彼女が妹だという事実が覆ることはなく、しょっちゅう私に敵対心を向けてきて……まあ、それだけなら子どものすることだと割り切れるが、私と瓜二つの顔に睨まれるたびに“自分”に怒られている気分になり、胸の奥がキリキリ痛むのだ。一度死んだくせになにをのうのうと生きているのだと言われている気がするのはただの被害妄想だとわかっているが、それでも息をするのが辛くなる。

 ――だから、配属の寮が分かれたときはとても嬉しかった。

「グリフィンドール……パドマと違う寮」

 無意識にぽつりと言葉を零していた。

「やあ、ヘンリー。グリフィンドールへようこそ」
「妹と離れたのが寂しいのか?」
「君たち双子は、見た目は瓜二つのくせに中身はそうじゃないから仕方ないさ」
「ドンマイ」

 テンポよく放たれる会話に呆気にとられていると自然な動作で右隣の彼の手が肩に乗り、驚いて体を揺らすと両隣に二つある同じ顔が同じ表情でからかうように笑った。

「フレッド、ジョージ、新入生にちょっかいだすのは止めろ」

 口を挟む暇もなく会話に割り込んできたのはウィーズリーの双子と同じような髪色をしている上級生で(新入生は黒いネクタイをしているが彼はグリフィンドールカラーのネクタイを身につけている)、慣れたように双子を追い払うと歓迎の言葉を贈ってくれる。ありがとうとお礼を言い、彼と並んでテーブルについた。

「え? パーシーさんはウィーズリーの双子のご家族なのですか?」
「残念なことにね。……ヘンリー、敬語はいらないよ」
「ふふ、パーシーさんは兄弟と仲がいいのね。羨ましいわ」
「仲がいい? 僕とアイツらが?」
「ええ。本当に仲が悪かったら、悪口なんて言わないわ」

 クスクス笑いながら言うと私の答えが気に入らないのかパーシーさんは顔を歪め、出過ぎた真似をしすぎたかもしれないと謝罪をすると彼は視線を泳がせた。

「あー……君は、妹と仲が悪いのか?」
「…………え?」
「答えたくないならいいけど、そう言っているように聞こえたから」

 心臓が跳ね上がる音が聞こえた気がしたがすぐに笑顔を作って否定する。パドマと特別仲がいいわけではないが、だからといって仲が悪いわけでもなくそれなりの関係を築いていて……そう、仲が悪いわけではないのだ。
 自分に言い聞かせるように胸を撫でている間に新入生の組み分けが終わったようで、ダンブルドア校長先生が食事の音頭をとる。
 食器の上に浮き出た料理に目を丸くしていると、私の反応をおかしそうに観察するパーシーさんが食事を取り分けてくれた。大好きな肉にかぶりつき嫌いな野菜を避けているとパーシーさんに説教をくらったが、これからの学校生活は楽しそうになりそうだと口の端をつり上げる。

130109
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