ジェームズ・ポッターの胸に飛びつくというありえない所行をしたせいで朝から随分と疲弊していた。疲れの根元であるルーピンの姿はどこにも見当たらず、ルーピンだけでなく、先ほどまで確かにいたはずのリリー、シリウス、ピーターも消えている。ーー逃げられたのだと気づいたときには、全てが遅かった。
 ジェームズ・ポッターと抱き合った状態のまま寮を出ることもできず、嫌々ながら談話室の隅で作戦会議をすることにした。

「ねえ、ジェームズ・ポッター。この魔法を解く方法は知らないの?」
「残念ながら、知らないね。悪戯のときに使ったことはあるけど、解いたことはない」
「…………最悪だわ。ルーピンたちが来るまで、このままでいろと言うの? ありえない」

 青い顔をしても、当然ながら状況が変わることはない。

「ヘンリー、足が震えてるよ。寄りかかりなよ」
「…………どうもありがとう」

 微塵も予想していなかったジェームズ・ポッターの言葉に口が引きつる。ジェームズ・ポッターに体重をかけないよう気を遣いすぎて足が震えていたのは事実だが、この男が優しさだけでこんな申し出をするわけがない。きっと……いや絶対になにか裏がある。
 しかし足が限界というのも事実で恐る恐るジェームズ・ポッターの胸に寄りかかり、だいぶ楽になった体勢に息を吐いた瞬間――太い蛇が腰に巻きついた。
 蛇だと思ったものがジェームズ・ポッターの腕であると気づくと恐ろしさで喉が引きつる。

「な、なななな……!」
「仕方ないだろ、こうするのが一番楽だし自然だ」
「っ……あなたは、なにを企んでいるの!?」
「は? なにも企んでいないさ」
「嘘よ! じゃなきゃあなたが嫌いな女と密着なんてするわけないでしょう!?」

 たまらずに叫んだ言葉にジェームズ・ポッターはキョトンとした顔をする。
 私の言葉を理解できないというように首を傾げる男に体重を預けることが急に恐ろしくなって、腕を突っ張った。ベリッと音を立てて体は剥がれたが、すぐにまたくっつく。……もう、なんなのよっ。

「はーなーれーてー」
「無理だって言ってるだろう。学習しなよ」
「うるさい! 頭の上で喋らないでちょうだい!」
「ねえ、それより、」
「喋らないで! 動かないで! ……うぎゃっ、耳に息がかかる!」

 姉のリリーとでさえこんなに密着することはないのにと、不愉快さからくる苛つきを理不尽にジェームズ・ポッターにぶつける。これなら蛇の詰まった坪に手を突っ込んだ方がマシだ。……いや、蛇の坪に手を入れるのは無理だ。それならこのままの方がずっといい。

「ねえ、ヘンリー。そんなにこの状態が嫌なら、手を繋いでみよう」
「はあ?」
「この魔法が僕の考えている通りなら、上手くいくはずさ」

 力強く発言をしたジェームズ・ポッターは、迷いのない目で私を見据える。いつもはちゃらんぽらんなジェームズ・ポッターが、この時ばかりは頼りに見えて、差し出された手に思わず自分の手を重ねた。その時心臓が大きく脈打ったのは、気のせいだろう。

130324
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