仁王と幼馴染み

 メイちゃんとマサくんと私。三人でワンセットで扱われることが多いくらい私たちはとても仲が良かった。けれど、中学に上がった頃から私たちの関係はおかしくなり、高校に上がった今はとても微妙な関係にある。

「先輩たちまた二人で下校ですか?」
「相変わらず仲いいですね」

 マサくんと一緒に帰るのは幼稚園の頃からの習慣で、さすがにそのときのように手を繋ぎはしないものの、二人で帰るのが当然だった。
 冷やかしてくる後輩をあしらいながらマサくんと並んで歩いていたときに彼女とすれ違ったのは本当に偶然で、思わず足を止めた私の肩をマサくんが抱き締める。私たちに気づいただろうに無視をして通り過ぎていくメイちゃんと最後に会話をしたのはいつだっただろうか。家族のように仲が良かった頃が幻のように思う。

「……ヘンリー」
「ご、ごめんね、急に立ち止まって。ほら、早く帰ろう」

 繕った笑顔を向けると、マサくんは眉を下げて私を抱き締めた。





 私とマサくんは、大学に進んでも就職をしても相変わらず仲が良かった。あまりに仲が良いので、共通の友達には付き合っているんじゃないかと疑われているが、私たちはそんなに甘い仲ではない。なにより私には、ちゃんとした恋人がいた。私より二歳年下の男の子と交際をしている。
 女の子に騒がれる容姿を持ち、謎めいた性格をしているマサくんとは正反対の人で、真面目でちょっぴり卑屈屋な彼とは真剣に結婚も考えていた。

「……妊娠、したみたい」

 そう言うと彼はとても喜び、プロポーズをしてきた。
 俺と、結婚してください。
 ありきたりな言葉かもしれないけれど、私にとっては涙が出るくらい嬉しかった。両親に結婚と妊娠のことを伝えると、とても驚いた顔をされたが、初孫ができたことを素直に喜んでくれる。私のお腹をさすり「早く生まれておいで」と言うお母さんに思わず涙を流すと、みんなに笑われた。





 中学の部活メンバーで、同窓会をすることになった。テニス部のマネージャーをやっていた頃のことを思い出し自然と笑みが浮かんでくるが、少しだけ心配もある。一緒にマネージャーをしていた、メイちゃんもくるのかしら。
 当日はマサくんと一緒に会場に向かった。待ち合わせ場所にはメイちゃんもいて、声をかけるべきか悩んでいると、少し困ったような表情をした彼女の方から声をかけてくれる。あまりにも久しぶりだったので緊張したが、まるで昔に戻ったかのようにメイちゃんとお喋りできた。

「先輩たち、相変わらずラブラブですね」
「そろそろ、結婚すんのか?」

 切原と丸井の言葉に、私たちの方に注目が集まる。マサくんが「さあのう」と言葉を濁すのでますます私に視線が集まった。

「うーん、そうね……どうせ今日言おうと思ってたし、うん。私ね、秋に結婚するわ」
「マジか! おめでとう!」
「もう俺たちもそんな年になるのか……おめでとう、ヘンリー」

 四方八方からかけられる祝福の言葉に笑みを浮かべると、左隣に座っているメイちゃんが自嘲気味に笑って溜息を吐いた。(ちなみに右隣にはマサくんがいる)

「やっぱりアンタたちくっついたのね。……白状するとね、私、マサくんのこと好きだったの。だからヘンリーのこと避けてた、アンタに勝てる気がしなくてさ」

 今まで無視してごめんね、と私の肩に寄りかかるメイちゃんの瞳には涙が浮かんでる。

「あの……うん、ちょっとみんな勘違いしてる。私、マサくんとは結婚しないわよ」

 興奮しているみんなに届くよう少し声を張り上げる。

「結婚するのは同僚の拓海って人。この間妊娠がわかってね、結婚しようってことになったの」

 拓海を友人に紹介するのは初めてで、なんとなく照れ臭くなって髪に指を絡ませていると、みんなは酷く驚いた表情で私を見る。

「ヘンリーって、仁王と付き合ってんじゃないのか?」

 空気が固まった部屋に響くジャッカルの声。「そんなわけないでしょ」とカラカラ笑いアルコールの入ったグラスを傾ける。

「マサくんには、中学のときに振られてるもの」

 みんなが私の話に集中するものだから、カラランという氷がガラスにぶつかる音がよく響いた。

「俺、告白なんかされてなか」

 視線を料理に向けながら呟いたマサくんの言葉に、軽く相槌を打つ。

「中三のとき、マサくんに手紙を出したの。呼び出して、告白をしようと思って。でもマサくんは来てくれなかったわ」

 へなりと眉を下げると、マサくんは心底驚いた顔をして私の肩を掴む。

「俺……」
「ふふ、昔の話よ」

 弱々しい声を発したマサくんの髪をくしゃりと撫でると、彼は口をつぐんだ。
 改めて結婚のお祝いを口にしてくれるみんなに笑顔でお礼を言い、それから話題はどんどん変わり中学の頃の思い出を面白おかしく語り合った。





 マサくんと二人きりで日の沈みきった帰り道を歩いていると、不意にマサくんが足を止めた。つられて足を止めると、マサくんが熱い瞳で私を捉える。

「ヘンリー、俺と結婚して欲しい」

 マサくんにしては珍しい、シンプルで簡潔な言葉。彼が冗談で言っていないことくらいは私にも伝わって、困ったように眉を下げるとマサくんはさらに言葉を続ける。

「愛してる。他の男にとられちまうなら、もっと早く言えば良かった。……俺以外のとこに、行くな」

 二本の腕に抱き締められる。がっしりとしているはずの腕がなんだか頼りなく見えて、縋るように私に身を寄せるマサくんの頭に手を乗せた。私が選んだ答えは――

130312
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