魂の回収屋

 若葉マークをおでこに貼り付けた私は、なにを隠そう今日が初出勤である。
 今まで育ててくれた先生の顔に泥を塗らないよう気合いを入れて飛び出した先にいるのは、間違いなく今しがた死に絶えた人間だった。死体からふわりと青白いモヤが浮かび上がり、右手に持った鎌で「肉体」と「魂」を切り離す。ここまでは簡単なのだが、これからが少し厄介である。

「あのう、私が見えますかー?」
「え? あ、ああ、うん、見えるよ」
「良かった。……えーと、あなたの名前は、ジェームズ・ポッターで間違いない? あらま、死んだのは友人に裏切られたからなのねえ」

 五センチ程の厚さをした紙束の中から目的のものを引き出しツラツラと読んでいくと目の前の人物の顔色が変わっていき「やば、失言?」と慌てて口を閉じる。
 私がスムーズに仕事をするためにはこの男の機嫌を損ねるのはよくない。にこりと笑って誤魔化してみるもジェームズの顔色は悪いままでどうしたものかと頭を掻く。ごねられたら、面倒だなあ。

「僕は、死んだんだね?」
「残念ながら」
「……君は、死神? 死神にしては、随分と可愛らしいね」

 皮肉を込めた言い方にカチンときたがなんとか笑みを浮かべてこれからの説明をしていく(私に死神なんざできないってか? 随分と舐められたものだ)。けれどジェームズは私の話には耳を貸さず、彼の妻である「リリー・ポッター」がどうなったかと聞いてくる。
 そんなの知るかと悪態を吐くも表面上は笑顔のままで「他人の情報は教えられません。プライバシーですから」と無難な返答をする。しかしその答えが気に入らないのか不機嫌な顔をしたジェームズは、リリーは他人なんかじゃない! と私の持っている紙を奪った。
 折角人が穏便に事を進めようとしているのになんなのだこの男は。そんなに死にたいのか(もう死んでいるが)。

「……この字はなんだい?」
「崇高な者にしか読めない文字だよ。ジェームズは、読めないみたいだね」

 事実を言葉として並べただけなのだが、またしてもジェームズを不機嫌にさせてしまったようだ。面倒なことになってきたと内心溜息を吐くもこれ以上機嫌を損ねるわけにはいかないと手早く説明を続ける。

「――つまり、あなたはこれから全てをリセットして新しい器に入ります。オーケー?」
「生まれ変わる、ってことかい?」
「そうそう。飲み込みが早くて助かる。さあ、リセットルームに行こうか!」

 ジェームズから奪い返した紙の束を小脇に抱えて鎌を引きずりながら歩く。後ろからついてくるジェームズは難しい顔をしていたが、おとなしく私の後をついてくる。順調な進み具合ににんまりと笑みを浮かべるも、すぐに事態は急変した。ジェームズが、逃亡したのだ。「リリーの無事を一目確認してから戻るよ!」と手を振るジェームズの動きは素早く簡単には捕まらない。戻る戻らないではなく、逃げたという事実が問題なのだ。死者の逃亡は刑罰三条の七項目に引っかかり、それはそれは恐ろしい罰が下される。

「リリーに会うためなら罰なんて痛くも痒くもないよ!」

 足を止める様子のないジェームズは完全に「逃亡者」だ。あまり使いたくはなかったが仕方がないと鎌を振りかざし、ジェームズに思い切りそれをぶつけた。
 吸い込まれるようにジェームズにヒットした鎌は地面に突き刺さる。胸に刺さる鎌に痛みを感じているのか悲鳴を上げて手足を動かすジェームズは陸に上がった魚のようだ(鎌は見事心臓にヒットした、流石私)。

「残念ながら逃がすわけにはいきません」
「ちょっとくらい、いいじゃないか!」
「駄目。そういう決まりなの。……残念だけど、あなたはリセットルームには行けなくなったわ」

 罰を与えるまではリセットを行うことはできず、もちろん新しい器に入ることも不可能だ。

「えーと……逃亡者に与えられる罰は……」
「リリー! リリー!」
「……」
「リリー!」
「……そんなに、その人が大切?」
「当たり前だろ!」
「ふーん。そっか。なら、罰をしっかり償ったら一度だけ会わせてあげようか?」

 探すのは面倒だが「死者を人間に会わせてはいけない」という決まりはない。またなにかをやらかされては面倒だと提案したのは思った以上の効果をもたらしたようで、すっかりやる気を出したジェームズは自ら罰を要求してくる。
 刑罰の記載されている本を右の空間から取り出して三条のページを開く。えーと、

「反省するまで担当の指導を受ける」
「? 要するに?」
「逃亡したのをキチンと反省するまで私が面倒みるってことね。ほら、反省して」

 案外簡単な内容にホッと息を吐きジェームズを促すも彼はむっつりした顔で考え込む。なにをそんなに悩んでいるのだとジェームズをつつくともったいぶるようにジェームズは口を開く。

「つまり、リリーに会おうとしたことを反省しろと?」
「まあ、そういうことになるのかな」

 よくわからないけど、と付け足すとジェームズはとんでもないという表情で首を振る。そんなことなんてできない、と言うジェームズに嘘でもなんでもいいからとりあえず反省しておけと言っても「この気持ちを偽ることなんてできない」と真顔で言う。

「でも、そうしたらリリーと会えないわよ」
「ぐっ」
「ほら、早く反省して」

 そういくら促してもジェームズが反省することはなく、私は初仕事から躓いてしまった。

130311

ジェームズが反省をすることはなく、ヒロインと共に日々を過ごしていきます。セドやシリウスたちの魂だけでなく、ジャンルをこえて、エースやイタチたちの魂も回収をするヒロインにジェームズがついていく、そんなお話。にしようと思っていました。
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