ET(マイケル)

 外国での生活に慣れない私にたくさんのことを教えてくれたのがマイケルだ。癖のある髪、青い瞳、少し飛び出た前歯。その全てに惚れるのに時間は掛からなかった。

 私の家に遊びに来たマイケルは、なにがそんなに面白いのか、ずっと私の顔を見ている。顔を逸らしてみても、彼の視線が動くことはない。

「あの、マイケル?」
「なに?」
「……あまり、見ないで」

 マイケルは何度か瞬きをし「無意識だった」と頭を掻く。一つ一つの仕草が、私の心を揺さぶる。
 すぐ隣に座って居るマイケルの横顔を見ることが出来ず、足元に視線を落とす。そんな私の手に、彼は自分の手を重ねる。手から伝わる温もりに、体が熱くなった。

「ヘンリー」
「……なあに?」
「目を閉じて」

 その言葉に従うと、唇に柔らかい感触がした。目を開けると、目の前にはマイケルの顔。……キス、してる。
 うるさい心臓の音は、マイケルに聞こえているかもしれない。角度を変えてもう二度キスをした彼が、ようやく離れていく。
 目が合うと、にやっと笑うマイケル。

「俺のファーストキスも、セカンドもサードも、みんなヘンリーのもんだ」

 右腕を私の肩に回すマイケルに引っ張られ、体が密着する。弱々しくマイケルの服を握り締めると、強く抱き締められた。
 優しく髪を梳く、マイケルの指。私の指より長いその指が、私の顎をとらえる。
 視線が、絡んだ。
 全身が心臓になったかのように、うるさい。口元に緩く笑みを浮かべるマイケルに、また一段とうるさくなる心臓。

「真っ赤」
「……ばか」

 マイケルの指が頬に突きささる。痛い、と文句を言い、彼から距離を置く。腕の中から逃げ出した私を窘めるようにマイケルが睨む。
 痛い。視線が、痛い。
 再び伸びてきた腕を避けることなど出来ず、マイケルの腕の中に逆戻り。

「……恥ずかしいのだけど」
「んー」

 私の言葉を聞いているのかいないのか、適当な返事しかしない。
 覆い被さるように抱きついてきたマイケルに押し倒され、ベッドに髪が広がる。胸元まで伸びた髪は、マイケルに褒められてからずっと伸ばしていた。
 ほっぺ、額、髪の毛。あらゆる場所に、キスをされる。いつもよりスキンシップ過剰なマイケルに首を傾げると、顔のラインに沿うように指が這う。ぞくり、と背中が粟立った。

「なあ、」
「?」
「……今日、ラインとキスしてなかったか?」

 ぶっきらぼうな彼の言葉で、昼間の出来事を思い出す。学校で、悪ノリをしたラインが頬にキスをしてきたのだ。スキンシップが苦手な私をからかう人は、少なくない。

「ラインに、惚れた?」
「まさか。あの人は苦手よ」
「……そっか」

 安堵したように表情を緩めるマイケルを見ていると、勘違いする。彼が、私を好きなのではないかと。

130309
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