バトロワ ※流血表現あり 女に生まれたことを酷く後悔していた。男だったらもっと体力があり身体能力もあったというのに、なぜ私は女に生まれてしまったのだろう。 しかしいくら望んだところで男になれるわけがなく、私はこのバトルロワイアルに正面から挑んでいた。仲の良い旧友を何人も殺し命を紡ぎ合わせた私の体は血まみれだ。 「ヘンリー!」 戦いも終盤に差し掛かった今、こんなにも真っ直ぐに私の名前を呼んでくれる人がまだいるなんて思いもしなかった。この殺戮現場には似つかわしくない笑顔を携えているその男の名は、鳳長太郎。お人好しな彼がまだ生きていたことに驚いたが、すぐに頭を切り換える。何度も私の命を救ってくれた拳銃を両手で持ち銃口を長太郎に向け、驚いたように目を見開いて立ち止まる長太郎を嘲笑いながら引き金を引く。 命中した、と確信したが、弾は長太郎から遠く離れた場所にある木の板を貫通した。今まで狙ったものを外したことなどなかったのにこんなに大きく的から外れるなんてと首を傾げるも、よく自分の手を見てみると小刻みに震えていてとても銃など持てる状態ではない。 今更人を殺すのに怯えているのだろうか? 自分に問いかけながらもう一度銃を構えようとしたとき、異変に気づく。いつの間にか私の目の前にやってきた長太郎は私のことを包み込むように抱き締めた。 「ヘンリー、もう人殺しなんてしなくていいんだ」 「なに言ってるの? 殺されなければ殺されるわ。私は何度も死にかけた。……親友ですら私を殺そうとした……!」 「大丈夫。俺がヘンリーを守る。……愛してるよ、ヘンリー」 「あ、い……? ……あ……あ、ああぁああ! 私は間違ってなんかないわ! みんな死んでしまえばいいのよ! しねしねしね!」 頬を流れる涙を無視して叫ぶ私を長太郎はずっと抱き締めていた。私を守ると、私に生きろと声をかける長太郎に全てがわからなくなってしまう。 私のしたことは間違ってるの? 私は人殺し? 私は……私は……狂っているの? ガクガクと震える私の手を握ろうとする長太郎の手を振り払う。 「ヘンリー……」 悲しそうに眉を下げる長太郎の腕を引っ張り私の後ろに移動させると、両腕を広げる。長太郎が不思議そうな顔をした直後――ズガガガガガ――数え切れないほどの弾丸を私は浴びた。慌てて駆け寄ろうとする長太郎を大声で制止させ、私は最後の力を振り絞る。 「ふ、ふふ……みぃつけた」 慌てたように動いた人影に戸惑いなく銃を向け殺害した。あっけなくやられたことに拍子抜けをしたが、それほど私は戦いを身につけてしまったのだろう。わずか二日間で私は頭のてっぺんまで黒い底なし沼に入ってしまい、もはや抜け出すことは不可能だ。 「ゲホッ……!」 「た、大変だっ、血が……!」 「……どうせ死ぬ、から。ちょ、た……優勝おめでとう」 長太郎と私以外に生き残っていたのは、先ほど私が殺した男一人だけだった。そして私も、すぐに死ぬだろう。 視界がぼやけ、口から大量の血がごぷりと溢れ出る。それでもにっこりと笑ってみせ、私は自分のこめかみに銃を放った。長太郎の断末魔を聞いた気がした。 幕引きは潔く 130123 しおりを挟む/目次 [top] |