マチと名付けた赤子はずいぶんと逞しく育ちました。

 マチはピンク色の髪を頭の後ろで結い、私がプレゼントした民族衣装を動きやすいように改造して身につけています。そんな、やんちゃ系の可愛い見た目をしたマチは、その細身からは想像のつかない凶猛なパワーを繰り出すのです。それはマチにだけいえることではなく、シャルナーク、パクノダ、ノブナガ、ウボォーギン、フェイタン、フランクリン、フィンクスにもいえることでした。

 私はマチを拾った後、何人もの赤子を拾いました。一人の赤子だけでも大変である子育ては決して楽なものではなく、できればもう二度と体験したくありません。ですが、捨てられた赤子を見つけたらまた拾ってしまうのでしょう。生きる理由はいくらあっても足りないのだから。

 ですが、私に拾われた赤子が、幸せなのか不幸なのかはわかりません。抱っこした赤子を腕から落とすことはしょっちゅうで、ミルクをあげるのを忘れてしまったり、散歩をした先に赤子を置き去りにすることもよくありました。いくら気をつけても、鈍くさい私はやらかしてしまうのです。

 そんな私に拾われた赤子は、逞しく育たなければなりませんでした。逞しくない赤子は人形のように動かなくなるからです。マチもシャルナークもパクノダもノブナガもウボォーギンもフェイタンもフランクリンもフィンクスも何度も人形になりかけました。

「ヘンリー、なにを読んでいるんだい?」
「“世にも不思議な秘宝”って本を読んでいるのですよ、マチ。このクルタ族の眼球がとても素晴らしいのです」
「へえ、あたしにはよくわからないね。……で、いつものように盗みにいくかい?」
「ええ、そうですね。現物を見るのはとてもいい刺激になりますから」

 閉じた本を棚に戻そうと立ち上がると、膝にかけてあったキルトが足に絡み、体勢が崩れました。あ、倒れてしまうと思ったとき、マチがお腹に腕を回して支えてくれ、私は怪我をせずにすみました。
 しかし、それで安心することはできませんでした。私が体勢を崩したときに懐から大量に飛び出した仕込みナイフが、シャルナーク、ノブナガ、フェイタンの上に降り注いだのです。この間美術館から盗んできたナイフの切れ味は抜群です。
 昔、料理をしようとしたときに包丁でうっかり人を刺してしまったときのことが頭を過ぎりました。

「……っぶねーな」
「ノブナガ、だらしないね」
「ハハッ、ヘンリーっておっちょこちょいだよね」

 三人は綺麗にナイフを避けたようです。一番近くにいるシャルナークの体に怪我がないか隅々まで調べると、服の二の腕部分に一筋の切れ目が入っていました。眉を下げて切れ目を撫でていると、マチが念を使って元通りにしてくれました。
 ありがとうございますと言うと気にするなというようにマチは首を振ります。マチは私なんかよりも立派で、私がいなくても生きていける人間になりました。そこで私はふと思いました。

 マチ、シャルナーク、パクノダ、ノブナガ、ウボォーギン、フェイタン、フランクリン、フィンクス。みんな、自分の足でしっかりと立っています。私がいなくても生きていけるのでしょう。
 なら、私はなんのために生きているのでしょうか? いくら考えても答えはみつかりませんでした。

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