アザゼルさん

※下品です。
※名前変換をカタカナにすることをオススメします。

 魅力を司る悪魔、ヘンリーサマー。性別はおろか種族を問わず翻弄することのできる彼女に逆らうものは誰もいない。ある意味この世で最強の悪魔、ヘンリーサマーは今日もしもべをはべらせながら薄い本を手に怪しげな笑みを浮かべていた。

「ハアハア……恭くん萌えー。翼とのカプリング最強すぎ、濡れちゃうわあ」

 ――ヘンリーサマーは、腐女子だった。
 ぷるんと弾力のある可愛らしい唇から涎を垂らしたヘンリーサマーを見てもなおうっとりとしているしもべたちの目には彼女がどう写っているのだろうか。
 しもべの一人がヘンリーサマーの前に跪き、完璧な動作でドリンクを差し出す。血のように赤い液体の入ったグラスを手に取りにっこりと微笑んだヘンリーサマーに、しもべは勢いよく鼻血を吹き出した。

「あら、どうしたの?」
「な、なんでもございません……グフッ……」

 しもべが慣れたようにティッシュを鼻に押し込んでいると、ヘンリーサマーの頭上に突如光が現れた。ざわめき出すしもべとは対照的に、ヘンリーサマーは「呼び出されるのなんて何年ぶりかしら」と呑気に支度を整える。光が消えたとき、ヘンリーサマーの姿もその場から消えていた。





 魔法陣の上に姿を現したヘンリーサマー……――否、ヘンリーサマーにしてはいささか風貌がおかしい。幼稚園児程度の大きさの、ころっと可愛らしい生き物がそこにいた。その可愛い生き物に頬ずりすれば、どんな人間でも思わず笑みを零さずにはいられないだろう。

「わあー、可愛いですね!」
「この悪魔の名前はヘンリー、職能は魅力だ。……ヘンリー、生贄になにを望む?」
「ええと……その前に、どうして私はこんな姿になっているのかしら?」

 髪を一つに纏めた女性の腕の中で首を傾げるヘンリーサマーは不思議そうに自分の顔をペタペタと触る。その行動にうっとりとしている佐隈はヘンリーサマーの頭に頬をすり寄せ存分に癒されているようだ。

「これは芥辺はんのせいやねん。芥辺はんはこのビルに結界をはっとってな……」
「あら、その声はアザゼル?」
「覚えててくれはったんか! いやあ、こうしてまた会えたのも運命や。どや、今夜一発……グベシッ!」
「ヘンリーさんに変なことを言わないでください、汚れます」

 懐かしい級友に笑みを浮かべたヘンリーサマーは、その級友の頭が吹き飛んでも笑顔を崩すことはなかった。佐隈が満足するまで撫でくり回されたヘンリーサマーは、地に足をついて改めて自己紹介をする。

「初めまして、ご主人さま。ヘンリーと申します。みんなからはヘンリーサマーという愛称で親しまれておりますがお好きなように呼んでくださいまし。……早速ですが、契約の方に移らせていただきますね。私が希望する生贄は、」

 言葉を区切ったヘンリーサマーは勿体ぶるようにニヤリと笑う。

「ズバリ、“萌え”です!」

 恍惚とした表情を浮かべるヘンリーサマーに呆気にとられている佐隈の横で、芥辺はグリモアを手に取った。芥辺がグリモアを佐隈に渡し、その悪魔を呼び出すよう指示をする。不思議そうに首を傾げながらも芥辺の言うとおりに佐隈が呼び出した悪魔の名は、ベルゼブブ。

「ヘンリーサマー!? な、なぜあなたがここに!」
「ベルゼブブ? あなたこそどうしてここに……」

 驚いたように目を瞬かせるヘンリーサマーを凝視しているベルゼブブの顔がほんのりと色づく。そんな二人の再会を遮った芥辺はアザゼルの首根っこを掴みベルゼブブに向かって投げつけた。突然の暴挙にアザゼルとベルゼブブだけではなく佐隈も目を丸くしている。

「あ、芥辺さんいったいなにを……」

 確かヘンリーサマーの生贄の話をしていたはずなのにと佐隈が狼狽えていると、甲高い声が響きわたった。

「アザゼル×ベルゼブブ!? キャーッ、やっぱりベルゼブブは受けなのね、ツンデレ王子万歳! アザゼルは、へたれ攻めだから、主導権はベルゼブブのもので……ぐふ、ぐふふふふ」

 ニヤニヤ笑うヘンリーサマーはとても怪しいがそれでも可愛いと思わせるなにかがある。
 その後あっさり芥辺と契約を交わしたヘンリーサマーは、早速初仕事に向かったのだった。

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