リリー成り代わり 艶のある赤い髪も、煌めくグリーンの瞳も、モデルのようにスラリとした体型も、なにもかもが嫌いだった。この体は作られたものであって、私のものではない。リリー・エバンズという名の与えられた私につきまとうのは、いつも絶望だった。 なぜ自分が児童小説の中のキャラクターになっているのかなんて理由を探すのはとっくに諦め、レールのように決められた人生を歩む。セブルスという幼馴染みと遭遇し、魔法学校に入学し、グリフィンドールに配属され、ジェームズに求愛を受ける。いずれはジェームズと結婚して、ハリーという子どもを生み、若くして死ぬのだろうか。 「リリー」 砂糖シロップよりも甘い声を出すジェームズに涙が溢れてくる。ジェームズが慌てたように私の涙を拭くのは、私がリリー・エバンズだからで、私が私でなくてもきっとジェームズは同じことをするのだろう。 「リリーは、泣き虫だね」 「……そんなことないわ」 「いいや、泣き虫さ。いつも泣きそうな顔をしている。どうやったらリリーの笑顔に曇りがなくなるんだい?」 「リリーでなくなったら、かしら」 きっとそれは不可能なことなのだろうけれど。また一つの絶望を胸に抱き、腰をかけていた椅子から立ち上がろうとするとジェームズに腕を掴まれる。首を傾げてジェームズを見ると、彼は私を抱き締めた。「ヘンリー」耳元で囁かれた名前に目を見開くと、ジェームズはクスリと笑う。どうしてその名前を、という問いにジェームズが答えてくれることはなかったけれど、全てを受け入れられたような気がして胸が軽くなる。絶望が、希望に変わった。 120902 しおりを挟む/目次 [top] |