にこにこと惜しみなく笑顔を振りまき「あんがとなー!」とさらに笑顔を眩しくさせた切原くんが目の前にいる。何事だろうと思ったのはほんの数秒で、すぐに昨日の事を言ってるのだとわかった。今更だなあと思いつつこくりと頷く。あれから先生や部活の先輩に褒められて上機嫌なんだそうだ、テニス部の鬼と言われる真田先輩にまで「よくやった」と言わせた切原くんの英語力がちょっと心配になった。
 お礼と称して机の上に残された三つの飴玉を一つずつ指でつつく。リンゴ、オレンジ、グレープ。大好きなリンゴを最後に食べようと、オレンジの包みを開ける。口の中でコロコロと飴玉を転がしながら授業を受けた。午前の授業が終わる頃にはグレープの飴玉も姿を消していた、無意識に食べてしまったらしい。
 お昼休みに入りユリと机をくっつけてランチタイム。カバンからピンク色のいかにも女の子というお弁当を取り出すユリに倣い自分も弁当箱を取り出す。

「あれ?」

 飲み物を忘れてしまったらしい、カバンの底まで探してみたが見当たらない。首を傾げてこっちを見てくるユリに簡単に事情を話してから自動販売機へ行くため財布を持つ。購買の近くにある自動販売機は混んでるだろうからちょっと遠いが体育館付近にある自動販売機に行こう。先に食べていいと言っておいたが恐らく私が戻るまで待ってるだろうユリのために小走りで校舎を進む。るるソードを使ってしまえばとも思うが誰かに見られたら困るし出来る限りの事は自分の力でした方がいいだろう。校舎と体育館を結ぶ渡り廊下を通り自動販売機まで辿り着くと、少し迷ってからリンゴジュースを購入。ガコンと音を立てて落ちてきた缶を取ろうと屈むと背後に人の気配がした。飲み物を買いに来た人だろう。邪魔にならないよう手早くジュースを手に取りその場を去ろうとした時、奇声が聞こえた。

「あ、あめ! 俺の飴が……! 最後の一つだったのに!」

 どうしてそうなったのかはわからないが、飴が自動販売機の下に転がってしまったらしい。思わず自分の飴玉は大丈夫かとポケットの上に手を添えると小さな膨らみがあって安心した。さて戻るかと足を校舎へ向けるも自動販売機の下の隙間に顔を押し込んで泣きそうな声を出す人物があまりにも哀れに思えたのでリンゴの飴玉をプレゼントしてあげた。泣きながら感謝されちょっと引いたがいい事をしたという満足感の方が大きかった。

120304
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