私の友達を紹介します ピチュンピチュン。控え目な小鳥の囀りが耳へと流れ込んでくる。今日も良い天気だなあと口元の筋肉を緩めながら机に寝そべろうとしたとき、まるでタイミングを見計らったかのように「おはよう!」という元気な挨拶がふってきた。 「おはよ」 クラスでも学年でも人気のある彼に声をかけられる事にももう慣れた。始めの頃は驚いてまともにできなかった返事を返し、今度こそ机の上に寝転がろうとするも鼻を擽る甘い匂いにつられて顔を持ち上げる。 「ん? 食べるか?」 「ありがと」 私の気持ちを汲んだように差し出された期間限定のモンブランポッキーに手を伸ばす。しかし私の手はポッキーを掴む事なく下ろされた。 「ありがと、丸井くん」 私とは別の高い声がお礼を紡ぐ。 そうそう、紹介が遅れたけど彼は同じクラスの丸井ブン太くん。昨年全国制覇を成し遂げた男子テニス部のレギュラーで、「ちょう」のつく人気者だ。他校にもファンが居るのだとか、最早私には想像すらつかない世界に居る御方だ。 「それ、ヘンリーにやったんだけど」 私へと渡るはずだったポッキーを指差しながら不機嫌にぼやく丸井くんに同意するようにこくこくと頷くと、ポッキーを持つ彼女にきつく睨まれた。私はなにも悪い事などしてないはずなのに。 「お返しにこれ」 一瞬で睨みを笑顔へと変えた彼女の手に握られているのはグリーンアップル味のガム。丸いケースに入った高めの奴。甘いものに目が無い彼は涎を垂らしそうな勢いでそれを凝視。ごくん、と喉を鳴らして手を伸ばす。 ふふんと勝ち誇った顔で笑っているのは私の唯一無二の親友。 120520 しおりを挟む/目次 [top] |