08

 翌日、待ち合わせ時間になってもカカシ先生がなかなか現れないので三人で顔をつきあわせ最終チェックをしているとき、当然のように遅刻してきたカカシ先生から告げられた演習の内容。……二人しか下忍になれない、だと?
 サクラ、そしてナルトを目で確認する。どうしても下忍になりたいというわけではないが、下忍になりたくないわけでもない。それは二人も同じだろうし二人に譲るほど俺はお人好しではなく、けれど、二人を押しのけてまで自分は下忍になりたいのだろうか? 矛盾した思いが胸を交差し、そうしているうちに演習はスタートした。

「(まずいな……迷いは動きに影響する。覚悟を決めねえと)」

 気配を消して茂みに隠れ、頭の中を整理していく。感情を押し殺すのも忍の仕事だ、これくらいで動揺してちゃざまあねえ。

「里一番のエリートねえ」

 いつの間にか背後に現れたカカシ先生に弾かれるように手裏剣を投げつけ、余裕で避けたカカシ先生の背後の木にしこんでおいたトラップが発動し、いくつものナイフが降ってくる。隙のできたカカシ先生に蹴りかかり、それを防がれるのは予想通りで、続けて右手で殴りかかりさらに踵を落とし――俺はカカシ先生から離れた。

「どうした? 早くスズをとってみせてよ」
「その前に、質問していいか。スズを取ったら本当に下忍になれるのか? ……いや、違うな。スズを取れなかったときのことしか説明してないもんな。また、仲間を蹴落とすゲームをするのか?」
「……さあね」

 読めない表情でそう言うカカシ先生は、俺に攻撃を促す。片手に持っていた本をポーチにしまいながらも俺から視線を外さないカカシ先生は、ナルトよりかは俺を評価していると捉えていいだろう。――だが、

「俺、アンタのこと信頼できねえ。アンタと班を組みたくない。……だから、今回は下忍にならなくていいや」

 木に刺さったナイフを抜き、カカシ先生に背を向ける。昼までの時間――後一時間。





 ナルトが弁当の置いてある丸太の後ろに手を伸ばそうとしたとき、竜巻のように現れたカカシ先生が取り押さえた。その瞬間を逃すことなく茂みから飛び出すと渾身の力で踵落としを食らわせる。カカシ先生が両腕をクロスさせてそれを受け止め――チリン、チリン。カカシ先生の腰に結わえてあったスズは可愛らしい音を鳴らしサクラの手の中におさまった。

「下忍になるのは諦めたんじゃないの?」
「ああ。だから三人で協力することにしたんだ」
「……なーる。でも、下忍にならないならスズを狙う必要はないんじゃない?」
「ある。三人がかりとはいえ、カカシ先生――忍からスズを奪えたんだ。これは俺の糧となる」

 ニヤリと笑う俺とは対照的に、カカシ先生はなにかを決めかねるように難しい顔をした。ちょうどその時昼を知らせるアラームが鳴り響き、それを確認したカカシ先生はナルトがこっそり盗もうとしていた弁当を俺とサクラに渡す。サクラはともかくなぜ俺に渡したかがわからずカカシ先生に疑問をぶつけるも、有無を言わせず弁当を押しつけられた。

「午後にもう一度同じことをするからキチンと食べとくように。それと、ナルトにはあげたら駄目だからね。もしあげたりしたら、どうなるかわかるよね?」

 そう不気味な笑顔を残してカカシ先生はその場から消えた。手の中にある弁当は朝からなにも口にしていない俺にとっては魅力的なもので、訴えるように鳴る腹に促されるようご飯を口に運んでいく。それを物欲しそうに見るナルトと目が合い、まだ食べ足りなかったがあまりにもナルトの腹が鳴り響くので思わず弁当をあげてしまった。それを見たサクラは少し悩むような素振りをするも迷うことなく弁当を差し出すものだから、口元に自然と笑みが浮かんだ。

「もしカカシ先生が俺らを合格させなかったらよ、三人でカカシ先生を捕まえて、火影さまに差し出して……んで、忍にしてもらおうぜ。三人でとはいえ忍を捕まえたら下忍に――」

 そこで言葉を区切り、目の前に現れたカカシ先生に思わず悲鳴を上げた。カカシ先生が近くにいることに気づけなかった自分の失態に舌打ちするも「合格」と語尾にハートマークがつきそうなくらい上機嫌なカカシ先生に目を丸くする。理由はよくわかんねーけど、これで俺は正真正銘の忍となった。

120916
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