06

 目が覚めると慌ただしい足音が聞こえてきた。見覚えのない場所に戸惑いがなかったといえば嘘になるが、それ以上に重要なことを思い出し体を動かす。――早く俺を殺してくれと「俺」が言ってるのだ。
 時には食事に出されたフォークを己の喉に突き刺し、時には屋上から身を投げ出し、時には死の森に単身で乗り込み、自殺を繰り返す。本気で死ぬつもりで行動したというのにどれも上手くいかなかったのは――死ぬ間際になるといつも脳裏に浮かび上がる男のせいだった。

「どうしてこうも死にたがるんだ?」
「記憶を失う前に、それだけショックなことがあったのよ」
「まあ、可哀想に」

 同情をする周りになんの感情もわかない俺はどこかが欠陥しているのだろうか。喜びも、ありがたみも、怒りもなく――あるのは虚しさだけだ。
 胸にポッカリと開いた穴は大きく、深い。それが唯一満たされるのは、死ぬ間際に思い浮かぶ男を思い出すときだけだった。





 見知らぬ場所に来てから――記憶喪失になってから半年が過ぎた頃。晴れて俺は下忍になっていた。額につけた忍の証に違和感があるが取り外してしまいたいほどではなく、面倒臭いながらも下忍合格者の説明会をキチンと受けている。見知らぬ男(本当に知らない男ではないが、見知らぬ男にしてしまいたい)と接吻という忘れてしまいたい記憶に蓋をし、イルカ先生の話に意識を集中させた。

「(ナルトと、サクラ)」

 班を組むことになったメンバーに目をやり溜息を吐く。
 さらに、俺たちを指導をするという上忍を見て諦めにも似た気持ちがわいてきた。なんだ、このメンバーは。

「ほら、次は君が自己紹介して」
「……名前、好き嫌い、将来の夢は、ない。名前がないと不便だろうから、呼び名はサスケでいいぜ。趣味は、自殺だ」
「じ、自殺ぅ?」

 怪しげに視線を寄越してくるナルトの言葉を聞き流し、早く次の自己紹介をしないのかと反対隣に視線をやるとサクラと視線がかち合った。頬を赤くするサクラを促すと、少し身悶えした後彼女は自己紹介をする。
 全員の自己紹介が終わり、カカシ先生が少しばかり話した後解散となり、すぐに帰ろうとした俺の腕を掴んだサクラの腕を掴み返し投げ飛ばした。

「てめっ、サスケ! サクラちゃんに何してんだ!」
「……触られると、条件反射でしちまうんだよ。サクラ、悪かった」
「う、ううん、私こそごめんね!」

 我ながら嫌な条件反射だと思うが、記憶を失ったときからの癖で直そうとしてもさっぱりなのだ。医師の推測によるとそれほど過酷な条件下で生きていたのだろうとのこと。
 俺は記憶を失う前に数年行方不明となっていたらしくその時どういう状況にいたのか知る者はおらず、イタチという俺の兄にあたる人物に連れさらわれていたのではないか、と誰かが話しているのを小耳に挟んだことがあるが真相は謎だ。興味もない。
 床に倒れたサクラの手を引いて立たせてやるとナルトが喚く。

「サクラちゃんに気安く触んな!」
「うるさいわよナルト! サスケくん、ありがとう」
「いや、怪我はねえか?」
「うん、大丈夫よ。……あの、明日のことなんだけど、」
「?」
「少し、作戦を立てない?」

 サクラの言葉にドキリとした。サクラにときめいたわけではなく、なにかが違う気がして、けれどなにが違うのかわからずに体が固まる。

120902
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