05

 サスケはヘンリーという名も持っているらしいが、ヘンリーと呼ぶとイタチが睨んでくるのでその名で呼ぶことはしていない。イタチの幻術は痛いんだ、うん。そんなブラコンイタチの弟であるサスケも相当なブラコンだが、サスケのことは嫌いじゃなかった。

 打ちつけた頭をさすりながら体を起こすと、ベッドの上では気持ちよさそうにサスケが眠っている。

「オイラにどこで寝ろってんだ」

 床で寝ることもできるが、自分のベッドを占領しているコイツのためにそれをするのはムカつく。いっそサスケを窓から放り投げるか、と考え始めたときに気づいたのだが、サスケはベッドの真ん中ではなく端に詰めるようにして寝ていた。人間が一人寝るには狭いスペースだが、成長期前のオイラが寝るにはまずまずのスペース。サスケの首根っこを掴んでいた手を離し、オイラはベッドに潜り込んだ。





 温かいものが、離れていく。無意識に伸ばした手が掴んだ温もりを離したくなく、腕に力を込めた。

「触るんじゃねえ、気持ち悪い」

 腹に衝撃を受け、強制的に意識が呼び戻される。ゆっくりと覚醒していく頭で状況を確認しようとするも、目と鼻の先にいるサスケに思わず吹いた。汚ェ、と再び腹を蹴ったサスケの足は寸分の狂いもなく先ほどと同じところに食い込む。
 あまりの痛さに呻くオイラを無視してサスケは着替えていく。日に当たる機会が少ないせいか、元々の質なのか、サスケの肌は驚くほど白い。死人のようなそれに不安になって手を伸ばすと、指が触れる前にサスケは素早く避けた。

「さっきからベタベタと、なんなんだよ」
「死人みたいだからさ、うん」
「? 死体が好きなのか?」
「いや、違うけど」

 シャツを着込んだサスケは不思議そうに目を瞬きつつ足のホルスターに忍具を詰めていく。「どっか行くのか?」と問いかけると、サソリさんとな、と手短に答え最終チェックを行う。へえ、旦那と……って、ちょっと待て。

「旦那の任務に着いてくのか?」
「ああ」
「いやいや、止めとけって。今回はオイラでさえ役不足だって外されたんだぜ、うん」
「……そんなにやばい任務なのか?」

 神妙な顔で尋ねるサスケに頷く。いったいサソリの旦那はなにを考えているんだと眉間に皺を寄せるオイラの隣で、サスケはなおも支度を進める。
 おい、まさか……、と呼びかけるオイラに、サスケは任務に着いていくことを断言し、反対しようとするオイラの言葉を遮り「俺は役不足じゃねーよ。キッチリカッチリ成功させてくる」と靴を履き直して部屋を出ていった。
 少しだけ、嫌な予感がした。





 次にサスケと顔を合わせたのはそれから三日後のことだった。ちょうどイタチが帰ってきたその日に、サスケも帰宅したのだ。
 多少傷を負いながらも命に別状はないサスケの瞳は固く閉ざされている。

「寝ている……のか?」
「いや、敵の術をくらった」
「……どんな術を受けた?」

 淡々と答えた旦那に鋭い眼差しを向けるイタチの瞳には怒りが浮かんでいる。それに気づいていながらも気にした様子をみせない旦那は「記憶を食われた」とだけ答える。――サスケの中から、全ての記憶が消えた。

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