03

 本当は、嬉しかったのかもしれない。イタチが俺を殺さないでいてくれたことが。
 変な装束に身を包んだイタチに視線をやると、イタチも俺を見ていたのか視線がかち合う。柔らかい笑みを浮かべたイタチから顔を逸らすと、鬼鮫にクッと笑われた。

「相変わらず仲がよろしいようで」
「サスケ……いや、ヘンリーは、大切な家族だからな」

 前の世界での出来事を全て話すと、イタチは前の世界で使っていた名前を呼ぶようになった。特に名前にこだわりがないので放置し、鬼鮫が不思議そうな顔をしても無視をする。
 暁という犯罪集団の一員となったイタチは、俺を人質として暁のアジトに住まわせていた。人質というのは気に入らないが、自由にできる現状には満足しているので文句は言わずにおとなしくしている。

「兄さん、今回の任務に俺も同行していいか?」
「…………」
「兄さん?」

 口元に手を当てているイタチに、具合が悪いのかと声をかけながら顔を覗き込むもその表情を見て口元が引きつる。兄さん、と呼ばれるのが嬉しいらしいが、そう呼び始めて暫く経つのにいつまでこんな過剰反応を続ける気だろうか。

「鬼鮫、今回の任務ついて行っていいか?」
「そうですねえ……今回は止めておいた方がいいかと」
「そうか。じゃあ土産よろしく」

 次は連れて行ってあげますよ、と言う鬼鮫に頷き、ハグをして別れを惜しむイタチを軽く抱き締め返してから任務に送り出した。





 イタチたちの任務が終わるのは短くて三日らしく、それまで何をして暇を潰そうかと思考を巡らせる。
 食料は三日分はあるが、三日以内にイタチたちが戻ってこない場合は山に狩りにいかなければならない……山菜でも探しに行くかと重い腰を持ち上げると、背後に人の気配を感じクナイを投げつける。いとも簡単にクナイを受け止めた人物は、暁の一員であるデイダラだった。

「よお、人質」
「……なにか用か?」
「暇つぶしにきたんだ、うん」

 にんまり笑うデイダラから距離を置こうとすると肩に腕を回される。あからさまに嫌な顔をする俺を気にせずに「花火するか」と元気よく言ったデイダラは懐から取り出した粘土を練りだした。手のひらサイズの動物を作り出したデイダラは、室内にも関わらずそれを爆発させる。(なんの動物かはわからないが、ウーパールーパーとキリンを合わせたような変な形をしていた)
 俺自身に被害はなかったが、無惨になった部屋に両手を合わせる。

「もう一回見たいか?」
「いや、お前の凄さはわかった、もういい。……俺は出掛けるから、じゃあな」

 これ以上一緒にいると変なことに巻き込まれるとデイダラから離れようとするも、ガッチリ腕を掴まれる。きつく睨んでもデイダラは気にした様子を見せず「どこ行くんだ、うん?」とついて来る気満々のようだ。

「山菜を採りにいくだけだ。……お前は任務ねーのかよ」

 俺の手を引っ張り外に向かうデイダラに問いかけると、さっき終わったばかりだから当分はないという残念な答えが返ってきた。兄さんが帰ってくるまで玩具にされるだろう自分の運命を嘆き、腕にへばりついて離れないデイダラを仕方なく引き連れアジトを囲うように繁っている森に入っていく。
 懐から取り出した風呂敷に山菜を摘んで歩いているとデイダラがつまらなそうに欠伸をするので先に戻っているように言ったのだが、頑としてデイダラは首を縦に振らない。

「そういや、サソリさんは一緒じゃねーの?」
「旦那は部屋にこもってるぜ、うん」
「んじゃあ後で会いに行かねえとな」

 帰って来たときに挨拶をしないと怒るサソリさんを思い出しぶるりと体を震わせると、デイダラが面白くなさそうな顔をする。

「もう帰んのか?」
「え? いや、もうちょい散策するけど……」
「なら暗くなるまでいよう、うん」

 てっきり山菜採りに飽きたのかとも思ったが、デイダラは積極的に食材集めを手伝ってくれ、美味しそうな木の実や獣も狩ってくれた。ここまでしてもらって何も返さないのは悪いと、今日の夕飯は俺がこさえてやると約束をする。
 俺とデイダラは、日が落ちるまで森の中で過ごした。

120829
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