02

 俺に与えられた名はうちはサスケ。前の世界にいたときに好きだった漫画キャラクターと同じだ、と笑ってしまったが、どうやら俺がそのキャラクター自身に成り代わっていると気づいたのは最近だった。まあ、だからどうということはないのだが。
 成長するにつれて自由に動かすことのできるようになった体はまるで俺のものであるかのようによく馴染んだ。エリート、と呼ばれるほどの実力を持った俺がなぜいまだ生きているか――。

「自殺するたびにクソ兄貴が助けやがんだよ」

 憎々しく漏らした言葉は当人であるイタチの耳にも届いていたらしく、イタチはニッコリ笑って俺の頭を掻き混ぜる。その手を払うのも面倒で、今日はどう自殺をしようか策を練っていたが、ふと良いことを思い出した。

「(イタチは、うちは一族を皆殺しにするはずだったな)」

 ふむ、と顎を撫でていると、俺がよからぬ企みをしているとでも思ったのかイタチに一日中つきまとわれた。だが、俺はその日を境に自殺を止め、イタチに殺される日を期待しつまらない世界を生きることを決意する。――早く俺を殺してくれ。





 すっかり自殺癖を直した俺に安心したのかあれ以来イタチが俺に構うことはない。変に情を持たれ、原作のように俺だけ助けられるなんて事態が起こらないか危惧していた俺にはちょうどよかった。いつイタチが俺を殺してくれるのかと心待ちにしていた俺は、今日という日をおおいに喜んだ。
 うちは一族の遺体が寝転ぶ道を俺は駆け抜ける。ドクドクと今までにないくらい興奮していて少し走っただけで息が上がったが、それでもスピードを緩めることはせずひたすら家を目指す。

「(どう殺されるんだろう。クナイで一刺し? 幻術? 忍術?)」

 できれば分身ではなくイタチ本人の手にかけて欲しいと願い、俺は自宅の扉を開いた。鼻につく血の臭いと、俺の帰宅に気づいた両親の「逃げろ」という言葉に俺の興奮は最高潮になる。早く早く早く――俺を殺してくれよ、兄さん。

「サスケ、か」

 不思議な模様をした瞳が小刻みに揺れ、俺をとらえる。この惨劇を目の当たりにしても動揺をしない俺を怪しんでいるのかイタチの眉間に皺が寄るも、そんなことを気にせずにイタチを見つめていると、イタチは驚くべき行動にでた。なぜ、なぜっ――

「俺を殺さないんだ!」

 家に木霊する声にイタチの顔が歪む。

「俺に情がわいたか? 馬鹿じゃねえの!」

 子どものように喚く俺にイタチは表情を動かさずに背を向ける。

「……まあ、いい。お前がいなけりゃ自由だ」

 俺の言葉で、足を動かそうとしていたイタチの動きが止まる。神妙な表情で「また、死ぬつもりか?」というイタチに答えることはせず自室へ向かおうとすると、腕を強く掴まれた。その腕を振り払い足を動かそうとすると背後から羽交い締めにされ、仕方なく首だけで振り返る。

「お前、なんで俺を生かした? ……俺、誰かに殺されるのは嫌だったが、お前にならいいと思ったのに」

 俺の言葉に心底驚いた、という表情をしたイタチだが、すぐになにかを思案し、そして俺の額を小突く。

「俺と、一緒に来るか?」
「はあ?」
「サスケを一人で置いていくと、何をするかわからないからな」

 返事をしていないにも関わらずイタチは勝手に話を進めていき、なぜか俺はイタチと行動をともにすることになった。意味の分からないことを言うなと拘束を振り解こうとするも上手いこと締められているらしく身じろぎすら上手くできない。本気で抵抗すれば逃げれたのかもしれないがイタチから逃げるのは一苦労だと面倒臭がり、結局俺はイタチとともに里抜けをすることになってしまった。

120828
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