13

 転々と世界を飛び回っている時に出会った一人の男に、私は興味を持った。異質な魂を持った男は、もしかしたら私と同じ存在なのかもしれない。死ぬことも、同じ場所に留まることもできない、孤独な私と。
 私は飽きることなく男を目で追った。私の前ではプライバシーなどあってないもので、暇さえあれば男を観察した。男の名はヘンリーといい、やはり彼は人間とは異なるものを持っていた。ヘンリーは、世界の全てを掌握していたのだ。

 人間とは、異質を気味悪がる生き物で、人間たちはヘンリーを執拗に追い詰めた。ヘンリーに数の暴力など無意味だと知ってか知らずか、集団なら怖くないというようにヘンリーを蔑む。
 人間と異なるものを持っていようと、ヘンリーも所詮は人間だ。私がそうであるように、ヘンリーも心が傷ついたのだろう。理不尽な暴力、暴言を浴びせられたヘンリーの心は砂漠のように枯れてしまった。そして、ついに、彼は己の魂と引き換えに一つの世界を壊してしまったのだ。

「哀れな男」

 そう、ヘンリーはとても哀れだった。誰一人心を通わせることなく消えてしまったのだから。まるで自分を見ているようで、けれど私はヘンリーという異質の仲間がいることを知っていて、それすらも知らずに消えてしまったヘンリーはとても哀れだ。だから、彼がまた同じ匙を投げないよう、少しだけ記憶を弄って新たな器を与えた。新たに与えられた名前は、うちはサスケ。
 つまらなそうに毎日を繰り返すサスケの日常に、彼の実兄であるイタチは、彩りを与えようと試行錯誤した。相づちすらしないサスケに毎日語りかけ、時間を作っては遊びに誘い、そして、実の親以上の愛情を惜しみなく注いだ。表面上はなにも変わらなかったサスケだが、少しずつイタチに心を許していった。――本来なら喜ぶべきことなのだろう。こうなることを私は望んでいたのだから。だが、いつの間にか喜びよりも憎しみの方が上回っていた。唯一出会えた“仲間”を奪われたことに嫉妬したのだ。
 サスケとイタチを引き離すことは容易く、私はイタチの代わりになろうとサスケの前に姿を現した。ルリコと、自らを名乗り。記憶をなくしたサスケに暗示をかけるのは簡単で、彼は私を愛してくれた。サスケはたくさんの愛を私に教えてくれたのだ。
 サスケにかけた暗示が解かれても、私は彼を忘れることはできず、今度は私が彼に愛を与えようと努力した。例え振り向いてくれることがなかろうと、私は彼を愛してしまったのだ。

「ルリコ、頼みがある」

 だから、サスケの頼みを断るなんてできるはずもなく、私は彼の望むままに消えた記憶を修復する。そして、イタチを探すと言うサスケの力になるために、私も旅に出た。転がっている石のように私を瞳に映してくれなかったサスケが自然と会話をしてくれるようになり、自惚れではなく、日を重ねる毎に私たちの心は近づいていった。

「お前は、俺の一番の友達だよ」

 頬に涙を伝わせるサスケの言葉が、胸に染み渡る。できれば女として愛して欲しかったが、サスケの一番になれた私はとても幸せだった。そう、私は誰よりも幸せだ。
 サスケの頬に手を添えると彼の涙で手のひらが濡れる。途切れることなく泣き続けるサスケに、精一杯の笑みを向け、目を閉じた。
 胸からとめどなく流れていく血が私を人間だということを思い出させてくれ、そして、迫りくる“死”に身をゆだねる。ようやく、私は死ねるのだ。サスケの手で死ねることに幸福を感じ、長すぎる人生に幕を閉じた。

121106
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