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 いったい俺は、何者なのだろうか。
 中忍試験を受けてわかったのは、自分の異常なまでの強さと、不思議な力だった。砂漠の我愛羅はもちろん、大蛇丸とさえ対等に戦い、そして、なぜかはわからないが、俺には未来がわかった。一次試験に始まり、最終試験の内容全てを知っていて、木の葉崩しのことまでも、なぜか知っていたのだ。自殺癖があるだけでもそうとう変わっているだろうに、本当に俺は何者なのだろうか。
 白い肌に幾重も刻まれている傷跡に指を這わせ身震いする。

「サスケ」

 一人きりだと思っていた空間に当然のように現れた女は、俺の恋人らしい。二度目の記憶喪失の前に俺から告白したらしく、そんなこと身に覚えにないと言ってもルリコの中で俺とルリコの恋人関係が撤回されることはなかった。
 嬉しそうに表情を崩して近づいてくるルリコは、異常な強さを誇る俺すらも凌ぐ力を持っている。こんなに接近するまで気づくことができなかったのだ、直接戦ったことはないが俺を殺すなど容易いのだろう。

「サスケのためにね、ご飯を作ってきたの。簡単なものだけど、良かったらどうぞ」
「ああ、サンキュ。……けど、もう作らなくていい」
「え?」
「何度も言うが俺はお前を恋人とは思っていない。だから飯を作る必要なんてない」
「……これから、好きになってくれればいいわ」

 なぜルリコがここまで俺に執着するのかはわからなかったが、ルリコがいくら俺に献身的に接してくれても彼女に情が動くことはなく、きっとこれからもそうなのだろう。呆れも、哀れみも、一切の感情のこもっていない瞳でルリコを一瞥してから、弁当を手に取る。嬉しそうに弁当を持った俺に視線を向けるルリコに声をかけることなく、足を動かした。



 イノの父親に呼び出され、火影邸の一階を目指し歩みを進める。道中出会ったシカマルも、火影邸に用があるというので肩を並べて歩く。シカマルとは同期という以外の接点はなく、特別仲がいいわけでもなく、会話を交わすことなく火影邸にたどり着き、そこでようやく口を開いた。

「さっきからジロジロと、なんだよ」
「いや……今日ここに来たのは、記憶のことか?」
「ああ、そうだ。シカマルは、中忍試験に受かったらしいな。おめでとう」
「……めんどくせーことにな」

 嫌なことを思い出したというように顔を歪めるシカマルの頬は、ほんのり赤くなっている。照れを隠していることに気づき口角を上げると、意外そうな顔をしたシカマルにまたジロジロ見られた。なんだよと顔をしかめると、お前もそんな顔するんだなと心底驚いた顔をしたシカマルの声が耳に届く。シカマルこそ普段は表情変えないクセにと、ようやく俺から視線を外した男を横目で見ながら歩いていると、いつの間にか目的の場所にたどり着いていた。二階に行くというシカマルと別れ、ドアノブを半回転する。抵抗なく開いた扉の奥には、イノの父親が立っていた。

「よく来たな、サスケ。――本当なら自然に記憶が戻るのを待つのがいいんだが、」
「説明はあらかじめ聞いている。俺の記憶は、戻らないと困るんだろ? イタチの手がかりが掴めるかもしれねえんだからな」

 そこまで知っているのかと目を見開くイノイチさんに構うことなく、用意されている椅子に腰を下ろす。目を伏せた俺の眼前に手のひらをかざす気配がしたかと思うと、意識が遠のいていった。――ぬるま湯に全身が浸かっているような、奇妙な感覚がし、次の瞬間、モノクロ世界に放り込まれた。
 目の前に広がるのは、今まで見たことのない構造をした建物、不思議な衣服を纏った人々だった。火影邸の三倍はある建物が所狭しと並ぶ街並みを見上げると、肩がぶつかる。謝罪もせずに早歩きで去っていく女は、時間に追われるかのように必死に足を動かす。女だけでなく、周りにいる誰もが切羽詰まった顔をしていた。
 いったいここはどこなんだ。散策しようと足を動かした時、後頭部に強い打撃を受け動きが止まる。痛みに顔をしかめて振り返ると、そこにはいやらしい笑みを浮かべた子どもが複数人立っていた。子どものうち一人が手に持っている石を振りかぶるのが見え、またあたってはたまらないと地面を蹴ろうとした時、足になにかが絡みつく。靴越しにでも伝わってくる気持ちの悪い感触に不愉快さを隠すことなく眉を寄せ目線を下げると、何本もの手が足に纏わりついていた。

「ばけもの」

 三日月のような口を動かして囁く一人の少年に触発されたかのように、他の子どもたちも口々に繰り返す。化け物、化け物、化け物。脳髄にまで響く声に耳を塞ごうとした時、肩に鈍い痛みが走る。次々と投げつけられる石。右からも左からも前からも後ろからも、絶え間なく石が投げつけられた。なぜ俺がこんな理不尽な暴行を受けなければならないのだと全身に怒りがめぐった時、上空から一人の男が降り立つ。羽根が生えているかのように軽やかに地面に足をついた男には見覚えがあり、男のくせに長い髪を揺らす男は俺に向かい手を伸ばす。思わず振り払った手を気にすることなく近づいてきた男に抱き締められた瞬間、体の中を這いずり回っていたどす黒い憎しみが抜けていった。

「ヘンリー」

 耳元で囁かれた名前には聞き覚えはないが、それが自分の名前だと認識することはできた。男の名前はイタチというのだろう。俺の実兄、うちはイタチ。イタチとの思い出が一切思い出されることはないが、自分の中でイタチがどれだけ大切かということは思い出した。――そうだ、俺にはしなければならないことがある。

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