ハロウィン

 ぴょこんと頭の上に生えている目障りな丁髷を引っこ抜いてやろうと手を伸ばしたのだが、呆気なく避けられる。舌打ちをして足を組み直す俺の目の前で、デイダラはにんまり笑った。そしてまた、同じ言葉を繰り返す。トリック オア トリート、と。
 こんなことになるならデイダラにハロウィンを教えなければ良かったと後悔するも、後の祭りだ。菓子を要求してくるデイダラの手を払いのけると、デイダラはより楽しそうに笑う。

「お菓子くれないってことは、悪戯だな、うん」

 暁のアジトに菓子が常備されているわけなどなく、くわえて俺は、アジトを自由に出入りできる身ではない。それはデイダラも知っていることで、確信して問いかけてくるデイダラは限りなく鬱陶しい。鬱憤が溜まり、意味もなく足を動かす。タンタンと俺の靴が地面にあたる音が室内に響き、ますます俺の機嫌は下降する。
 このアジトに唯一備え付けられている時計に視線を移すと、そろそろイタチが戻ってくる時刻を示していた。足を揺するのを止め、一人で楽しそうに悪戯の内容を考えているデイダラの横を素通りする。俺が逃げたことに気づいたデイダラが喚くのを気にせずアジトの入口に足を向け、ちょうど帰ってきたイタチに鉢合わせると思わず安堵の息が零れた。

「おかえり」
「ただいま。出迎えなんて珍しいな」

 口の端を少しだけ上げたイタチが手にしている袋を要求すると、イタチはすんなりと手渡してくれた。礼を言って拝借した袋の中から取り出した団子をデイダラに投げつけ、イタチに袋を返す。これで満足だろうと言ってやるとデイダラは悔しそうな顔をし、イタチは不思議そうな顔をした。端を折ってハロウィンの説明をしながら自室に向かい足を動かしているも、隣を歩いていたイタチの動きが止まり、つられるように立ち止まる。どうかしたのかとイタチの顔を覗き込もうとし、顔が引きつった。イタチは今、なんと言った?

「トリック オア トリート」
「……嫌がらせか?」

 眉を寄せてイタチを睨むも、効果はない。菓子はないと首を振ると、菓子はいらないとイタチは言う。ならなんなんだと眉を寄せる俺の腕を掴んだイタチは、無表情のまま顔を近づけ、そのまま――

「っなにしやがんだ!」

 怒りと羞恥で頭に血が上り、顔を赤くして怒鳴る俺にイタチは悪戯っぽい顔で笑いかける。なんてことないという口調で悪戯だ、と言い切ったイタチに、渾身の力で回し蹴りを食らわせた。

121025

イタチさん、なにをしたんでしょうね。
リクエストありがとうございました!
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