10

 記憶を取り戻せば“生きれる”のだろうか。記憶がないから、いけないのだろうか。

「(言葉って不思議だな)」

 ナルトに言われた言葉が深く胸に突き刺さっていた。傷を受けたわけではないのに胸が痛み、その言葉を思い出すたびに気分が沈む。心なしか、いつもより体も重い。
 そんな状態でも時間は足を緩めることなく過ぎ去っていき、なぜだかそれをとても怖く感じた。――俺がどうなろうと、時間は変わらずに過ぎていくのだ。それは当たり前のことで、気にとめることすら馬鹿らしいくらい必然的なことなのだが、また俺の胸を締め付ける。

「(最近チームワークも最悪だし……こんな状態でCランクの任務を引き受けるカカシ先生の気持ちがわかんねえ)」

 明日に迫った任務の荷造りをしていると、カランと音を立ててクナイが落ちる。床に転がった黒光りするそれに手を伸ばし――その行動はほとんど無意識に行われた。気づけば部屋の中は血溜まりになっていて、数え切れないほどの傷から溢れ出てくる血の香りに吐き気をもよおす。幸か不幸か胃の中に吐き出すものはない。
 この場面を見たらまたナルトは騒ぐのだろうかとどうでもいいことを考えながら目を閉じる。浅く呼吸を繰り返していると、溢れる血が引いていくのを感じた。一瞬全ての血を出しきってしまったのかと思ったが、そうではなく、傷が癒えていったのだ。

「誰だ……?」

 この短時間で自然と傷が癒えたわけでもなければ、自身で治したわけでもない。(こんな怪我を治すすべを俺は知らない)視界の端で動いた人影に目を凝らすと、そこには一人の女が立っていた。ピンク色の髪を揺らす人物に、一瞬サクラかとも思ったが全く違う女だ。
 時間を巻き戻したかのように傷も血も消えた自分の体を一瞥してから女に鋭い視線をぶつける。

「私はルリコよ。……そんなに睨まないでちょうだい。もう、傷は大丈夫みたいね」

 傷があったはずの体に指を這わせて確認をしたルリコは、にっこり笑う。なぜここにいるのだとかなぜ俺を助けたのだとか、聞きたいことは山ほどあったが俺の意識はそこで途切れた。ルリコの笑顔を見た瞬間、全身の力が抜けたのだ。





 次に目が覚めたとき、なぜか俺は戦いのど真ん中にいた。首に刺さった針を抜き出していると、目の前で繰り広げられる感動の茶番。どれもこれもくだらなかったが「白」と呼ばれる人間の胸に突き刺さるカカシ先生の腕を見た瞬間、羨ましいと思った。
 知らぬ間に始まった戦闘は知らぬ間に終わっていて、けれどそんなことはどうでもよかった。唯一気になることといえば、なぜあの女――ルリコがここにいるのかということだ。やけに馴れ馴れしくしてくるルリコをカカシ先生に押しつけ、サクラに近づく。

「サクラ、アイツと知り合いか?」
「アイツって……ルリコのこと? ルリコは任務を手助けしてくれたんじゃない、覚えてないの?」

 まるで知らないことがおかしいというように目を丸くするサクラに端を折って説明すると、彼女は神妙な顔で頷いた。

「白の攻撃で仮死状態になった時、記憶が飛んだのかもしれないわ」
「……俺の記憶力って、柔なのか?」
「ねえ、サスケくん」
「?」
「ルリコのこと、好き?」

 震える声で言うサクラの表情は真剣で、いつもならくだらないと一蹴りするだろう質問に唾を飲み込む。まさかとは思うが、記憶をなくす前の俺はルリコが好きだったのだろうか。いや、それはない。絶対ない。
 そういくら否定しようとも目の前のサクラはとても不安そうにしていて、沈黙の時間が続けば続くほど彼女の表情は沈んでいく。

「一目しか見てない女を好きになれるわけねーだろ」

 独り言のように呟いた言葉だがそれはしっかりとサクラの耳に届いたようで、サクラは嬉しそうに笑う。一瞬で表情を百八十度変えたサクラに、現金な女だと呆れるも、口元には笑みが浮かんだ。

121014
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