09

 忍の任務というものは思っていたよりも楽なものだった。(俺が新米の忍だから楽な任務が回されるのだろうが、それにしても簡単なものばかりだ)あまりに退屈なので自殺に励んでいたらカカシ先生に監視されるハメになり、生活が少し窮屈になる。それでもスキを見て毒薬を飲み込み生死の境を彷徨っていると、またあの男が現れた。
 結局今回も俺は死ぬことはなく部屋のベッドで目を覚ますと呆れ顔のカカシ先生に説教をくらう。カカシ先生になにを言われてもなにも感じなかったが、心底心配そうな表情をするサクラを見たら申し訳なく思った。

「どーして死にたがるのかね」
「深い意味はありません」
「お前は意味もなく死にたがるってのかよ!」
「ナルト、少し声を押さえなさいよ」

 腹部がムカムカするのは胃を洗浄したせいだと言われたので次からはなるべく毒薬を使うのは控えようと考えていると、無視をされたことが頭にきたのかナルトが殴りかかってくる。ぬるい拳を息をするかのように簡単に避けるとナルトはさらに怒ったようだが、カカシ先生に捕まったためそれ以上は攻撃をしてこなかった。

「俺、死にたいとは思ってねえよ。……記憶をなくしたばかりの頃はなんでか早く死にたいと思ってたけど、今は仲間ができたし生きてんのもそれなりに楽しい」
「じゃあなんで…………」
「――死ぬ間際になると、一人の男に会えるんだ。頭の中で。ソイツの顔を見ると“幸せ”なんだ」
「…………」
「はあ? それがなんだってばよ」
「……その男に会うために自殺していると?」

 補足するカカシ先生の言葉に戸惑いなく頷くと、ようやく理解したナルトが叫ぶ。

「命をなんだと思ってんだ!」

 獣のように唸るナルトの言葉に首を傾げた。命……それがなくなると、人は死ぬ。まるで命が大切だと言うようなナルトを理解ができず、不思議さを隠すことなく顔に表すとナルトだけでなくサクラとカカシ先生も眉を動かす。

「お前、記憶と一緒に大事なもんまで忘れちまったんじゃねえのか?」
「ちょっとナルト! それは言い過ぎよ!」
「……? 命は、大事なもんなのか?」
「違うってばよ。いや、命は大事だけど……お前は生きることを、忘れてる」

 生きる――ナルトの言葉に首を傾げて胸に手を当てると、力強く押し返す脈がある。間違いなく心臓は動いていて、間違いなく俺は生きている。不思議そうな顔をする俺を哀れむようにナルトが見た。

「人は一生懸命生きている。でもサスケ、お前は生きてなんかねえってばよ」

 思い返してみれば確かに一生懸命になったことはないと思った。一生懸命になれなきゃ、生きているとは言えないのだろうか。

「サスケは……そう、例えば、ナルトが敵に捕まったらどうする?」
「? そりゃあ、助ける」
「そうだ、お前はナルトを助けるだろう。だが、もし助けられなかったとしたら?」
「……諦めるしかねーだろ」

「なら、サスケの命と引き換えにナルトが助かるとしたら?」
「ナルトが望むなら、応じる」

 そこでカカシ先生は言葉を区切る。妙な沈黙が流れ、自分の回答を頭で繰り返してみても特に問題はないと思う。いったいカカシ先生はなにが言いたいんだ。

「サスケの回答には、感情がないんだよ」
「?」
「ナルトが望むなら――そう、言ったよね? それ、どうしてそう思った? ナルトのためを思って? ……違うでしょ?」
「……」
「サスケは、どうでもいいんだよね。ナルトがどうなろうと、自分がどうなろうと」

 カカシ先生の言葉は否定することはできない。一つ付け加えるとすると、全てがどうでもいいわけではなく、なるべくなら殺されることは避けたい。俺が殺されるのを許容してるのは俺自身と――そこで、言葉が詰まった。俺は今なんと言おうとしたのだろうか。頭に浮かんだのは、死ぬ間際にだけ現れる男の姿だった。

120925
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