ファミリー

「ふ、二人が付き合ってる!?」

 オーバーリアクションをする沢田に頷いてみせると、彼はあんぐりと口を開けた。間の抜けたその顔から視線を逸らすと、山本の視線とかち合う。いつもの朗らかな笑顔ではなく難しそうな表情をしている山本に首を傾げると、肩に手を置かれた。真剣な瞳をしている山本にドキリと心臓が跳ねる。

「脅されたのか?」

 普段雲雀はどんな認識をされているのだろう。一応彼らはファミリーなのではなかったか?

「脅されてなんかいないわ。ちゃんと雲雀のこと愛してるもの」
「愛!?」
「……沢田って、リアクションが大袈裟よね」
「ご、ごめん」
「……てめっ、十代目になんてことを!」

 胸ぐらを掴もうとする獄寺から距離を置くと舌打ちをされた。だが、確かに失礼な物言いだったかもしれないと沢田に謝るとこれまた大袈裟に両手を振りながら「気にしてないよ!」と言う。沢田のオーバーリアクションは生まれつきなのかもしれない。

「それにしても……付き合うきっかけは?」
「雲雀に告白されたの」
「雲雀さんが!?」

 もう沢田のリアクションには突っ込まないことにした。

「へえ、雲雀のやつ、やるのな」
「骸が牢獄から出れたら付き合うって言っちゃって……ほら、十年後の骸は釈放されたじゃない? だから付き合うことになったの」
「愛してるから付き合うんじゃないの!?」

 顎が外れてしまいそうなほど口を開いている沢田の言葉に肩を竦める。骸には色々な面でお世話になっているので、骸が監獄されているのに自分だけ幸せになるのは気が引けたのだ。まあ、今も骸は牢獄にいるがそれは無視しよう。

「そうだ。これ」

 右手に提げてした紙袋を沢田に差し出すと不思議そうな顔をされたが、無理矢理彼に押し付ける。これにはリボーンに脅され……頼まれて作ったお菓子が入っていて、間違いなくリボーンに手渡すようにと沢田にお願いした。
 獄寺が「そんなこと自分でやれ!」と怒鳴る前に一回り小さな紙袋をお礼と称して沢田に渡す。私だってこんなパシリのようなことを沢田に頼みたくはないが、もうリボーンに会いたくない。

「リボーンがごめんね」
「沢田のせいじゃないわ。むしろこんなことを頼んでごめんなさい。でも、もう…………リボーンには会いたくないわ」
「リボーンにどんな恐怖を植え付けられたの!?」

 雲雀さんにも怖がらないヘンリーさんが、と沢田がぼやいているが、雲雀には怖がらないのではなく慣れてしまっただけだ。

「ガハハ! これ、いい匂いするんだもんね!」

 俊敏な動きで現れた黒い毛むくじゃらの物体が沢田の手から紙袋を奪う。中から取り出した箱をあっという間に開けた毛むくじゃらの名前はランボといい、私の苦手な人物だった。

「チョコケーキ、チョコクッキー、チョコムースにチョコクランチ! ランボさんみんな好き!」

 箱に手を突っ込んだランボはガツガツとお菓子を胃に詰め込み始めた。流れるような動作に呆然と見送ってしまったが、この状況は最悪ではないか? リボーンには今日の三時(お菓子の時間)までに届けろと言われており、現在の時間は一時だ。作り直す時間などない。沢田にあげたお菓子はほんの気持ち程度のものなのでリボーンへ献上しなければならない量には及ばない。……死亡フラグが立った。

「私……月に行く」
「急にどうしたのー!?」
「リボーンとの約束守れないとか死んじゃうどうしよう私もう終わりだ」
「キャラ壊れてるー!」

 結局時間までに全てを作り直すことができず、足りない分は店で購入して埋め合わせた。リボーンは不機嫌そうにしていたが私に非はないことは理解してくれたのかランボを半殺しにするだけに留めてくれた。ありがたい。
 ビエーンと泣き喚くランボはさすがに可哀想で、元々子どもが好きな私は彼の頭を撫でてやろうと手を伸ばす。もじゃもじゃの毛に触れた瞬間、私は煙に包み込まれた。

121003
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