黒曜編 骸に連れられた場所は、随分と前に廃墟になった建物だった。いつまでも私の手を握り締めている骸の手を振り払い彼の一歩前を歩く。途中で骸の仲間に襲われたが、そのたびに骸が仲介してくれ私を新しい仲間だと紹介する。ほとんどの者が私の登場に不満そうにしていたが骸の言葉に逆らう気はないようだ。晴れて私は骸の仲間に加わることが決まり、頼んでもいないのに彼らの目的を聞かされた。 「ヘンリー、聞いているのですか」 「あなたたちの復讐に興味ないわ。……それより、そんな重要そうな情報を私に教えていいの?」 「クフフ、あなたは僕に逆らえませんからね」 「……それはこの怪我となにか関係してるのかしら?」 左の二の腕につけられた一筋の怪我に指を這わせながら骸をうかがうと、彼はクフフと怪しげに笑う。それが肯定なのか否定なのかはわからなかったが、この空間に足を踏み入れた瞬間から私に逃げ場はないのだろう。 「おや……侵入者ですね。僕は少し様子を見てくるのであなたにはその子どもの面倒を任せます」 骸が顎で示した部屋の隅に目をやると一人の男の子が膝を抱え込んで座っていた。彼の存在に気づかなかったわけではないができるなら関わりたくなくて無視をしていたのだ。骸がいなくなっても逃げる気にならなくて汚い地べたに座り込む。(逃げてもすぐに捕まるのが目に見えていた) 「お姉さん、並盛中の人?」 「……そうかもね」 「ねえ、ツナ兄を知ってる?」 「知らないわ」 意外とハキハキと喋る男の子に驚きながらも首を横に振る。残念そうに肩を落とした彼だがすぐに気を取り直したように自己紹介をして自分も無理矢理ここに連れられてきたのだと白状した。 「ヘンリー姉も無理矢理連れてこられたんでしょ?」 「半分正解で、半分外れね。雲雀の居所を調べに来たのよ」 「ひばり?」 「幼馴染みよ」 「一人で助けに来たの? ……ヘンリー姉って、強いの?」 「さあ?」 まだ質問したがっているフゥ太に背中を向けてこれからの作戦を練っていると遠くから爆発音がいくつも聞こえてくる。 ――そこからは急展開だった。骸と沢田が激しく戦いだし、被害を受けないようにするだけで精一杯だ。人間を操る骸の離れ業はもはや理解することなどできない。そしてなによりそんな骸に勝利した沢田は何者だろう。 「……ヘンリー、なんでこんなとこにいるわけ」 「アンタの巻き添えを受けたのよ」 ボロボロの雲雀に片手をかざして怪我を治してやる。先ほどの怪我が嘘のように身軽に動き始めた雲雀に溜息を吐いた。 「……お前、何者だ?」 「赤ん坊……」 この場に相応しくない姿に首を傾げる。 「お! ヘンリーじゃないか!」 「え、山本くん彼女のこと知ってるの?」 「ああ、去年一緒のクラスだったんだよ。な!」 「ええ。……で、帰ってもいいのかしら?」 黄色い鳥を指に乗せている雲雀を横目に一応そう声をかけると誰よりも偉そうにしている赤ん坊にまた「何者だ?」と睨まれる。すっとぼけてみても詰め寄ってくる赤ん坊の対処に困っていると雲雀に腕を掴まれそのまま引きずられるように帰宅した。 120630 次のページ# 目次/しおりを挟む [top] |