なな

 約一週間後の昼休み。
 どうかしたのと心配そうに声をかけてくるゆんちゃんに力なく笑いかけてから机に伏せた。あれから幸村くんに会うことはなく、幸村くんが会いに来てくれることはなかった。……幸村くんは、本当に私を好きではなくなってしまったのだろうか?
 あれから何日も経ったというのにそんなことばかり考えている私は、間違いなく幸村くんが気になっていた。
 肺に溜まった息を吐き出し、両手でくしゃりと髪を握り締めていると、背中に誰かの手が乗る。憂鬱な気持ちで顔を上げるとそこには少し顔をこわばらせた幸村くんがいて、出かけた悲鳴を飲み込み顎を引く。……び、ビックリした。

「工藤さん、ちょっと時間あるかな?」

 弁当を食べ終えた今、時間があることにはあるのだが幸村くんと二人きりになることを恐ろしく感じる。どうするべきか悩み思わずゆんちゃんに視線を送ると、彼女はなにを勘違いしたのか「暇だからぜひ連れて行って!」と少し裏返った声で私の背中を押し、驚いて目を見開く私に親指をグッと立ててみせた。
 いろいろ言いたいことはあったが全てを飲み込み、私の手首を握る幸村くんにおとなしくついて行く。

 いつか姫乃ちゃんに呼び出された視聴覚室に来たときは体がこわばり、振り向いた幸村くんを見てどうしようもない恐怖を感じた。

「俺、前に工藤さんに告白したよね」
「……う、うん」
「あれ、なかったことにして欲しいんだ」

 困った表情をする幸村くんを見て、足元が崩れていく感覚がした。わかっていたことだけれど、直接告げられるとこうも破壊力が違うものなのか。じわじわ目尻に溜まっていく涙のせいで視界が歪む。涙をこらえるために唇を噛みしめている顔はきっと不細工で、そんな私に気づいているのかいないのか幸村くんは言葉を続ける。

「工藤さん……いや、ヘンリーさん。俺は、ヘンリーさんが好きです」

「………………は?」

 間抜けに開いた口から思わず漏れた声を気にする余裕などないくらい頭は混乱していて、信じられない気持ちで幸村くんを凝視する。目に溜まっていた涙が零れ落ち、頬を伝う。
 幸村くんの手が伸びてきたかと思うと涙を指ですくいあげ、困ったように眉を下げた。

「前ヘンリーさんに告白したときは、本心からじゃなかった」
「……っ……」
「ああ、そんな顔しないでくれ。本心じゃないと言っても、その頃からヘンリーさんのことは好きだった。けど以前の俺には告白する勇気なんかなくて……あの時どうして告白しようと思ったのかはわからないけど、自分で告白した気にならなくて、……だから、改めて告白させて欲しい」

 少しだけ落ち着いてきた頭でよく見てみると、幸村くんの手は小刻みに震えていた。手を震わせ、顔を赤くし、息を飲み込んだ後に幸村くんはもう一度私を好きだと告げる。真っ直ぐに私を見つめる幸村くんからは熱いものが伝わってきて、気づいたら首を縦に振っていた。頷く私を見て幸村くんがどう解釈したのかはわからないが、嬉しそうに表情を緩めた幸村くんはとても幸せそうだった。

121006
end
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