頭の高い位置に結んだ髪を左右に揺らして歩いていると、後ろから声をかけれた。声の主は間違いなく私の名前を呼び、足を止めて振り返り――間髪入れずに走り出したのは、条件反射としかいいようがない。
 逃げるように走る私の周りに砂が浮かび上がり、体に絡みつく。しばらく抗ってみたが効果はなく、諦めて足を止めた私からようやく離れていった砂を操っているのは、額に刻まれた“愛”という字が特徴的な我愛羅だ。
 けっして我愛羅が嫌いなわけではないが、突然“普通”とは違う行動を起こす彼についていけずなるべく関わり合いたくなかったのだが、見事に捕まってしまった。うなだれるように膝をついた私を心配してくれる我愛羅の手を借り体を起こし、今回は何の用だとうかがう。

「特に用はない」
「……用もないのに、砂を使ってまでして引き止めたの?」
「意識してじゃない。ただ少し……」
「少し?」

 不自然に言葉を区切った我愛羅を怪しむように片眉を動かすも「ヘンリーと話がしたいと思っただけだ」なんて言われては彼を無視することなどできなくなり、立ち話もなんだからと近くの茶屋に入る。
 我愛羅に会ったのは久しぶりで、けれど口数の少ない我愛羅との会話は数十分で終わってしまった。竹でできた串で茶菓子を半分に割り口に放り込むと、我愛羅が興味深そうに私の前に置かれているお菓子に視線を落とす。食べたいならどうぞと皿を我愛羅に寄せると彼は首を横に振り、それでもお菓子から視線を動かそうとしない。
 竹串に差した茶菓子を我愛羅の口まで運び、口を開けるように促す。暫く目の前のお菓子を睨みつけていた我愛羅の唇が薄く開き、口の中にお菓子を放り込むと彼は顎を上下に動かした。

「おいしい?」
「ああ」
「ねえ、我愛羅のも少しちょうだい」

 我愛羅の前に置かれているあまり手のつけられていない団子を指差して首を傾げると、我愛羅はすぐに了承してくれた。お礼の言葉を告げて竹串を伸ばそうとすると、団子を一口サイズに切り分けた我愛羅が先ほどの私を真似るように口元に竹串を差し出してくる。チョウジやシカマルとたまに食べさせ合うことはあるが、相手が我愛羅というだけで異様なまでに緊張してしまい、それを悟られる前になんとか団子を口にすることに成功するも団子の味がわからない。
 口の中の団子をゆっくりと噛み砕き、目線を下げる。我愛羅の視線を感じなんとなく気まずい気持ちで湯飲みに唇をつけお茶で喉を潤した。思っていた以上に喉が乾いていたのかいつもより美味しく感じる。

「ヘンリー、今度風の国に来ないか?」
「?」
「ヘンリーのおかげで風の国は平和だ。少しくらいならもてなす」

 大袈裟な我愛羅の物言いにそんなことはないと首を振るも、風の国には行ってみたいと思っていたので誘いには頷いた。風影さま直々のお誘いなら長期休暇がもらえるかもしれないとほくそ笑み、我愛羅と別れた後早速火影邸に休暇願いを出しに行った。

130326
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