08

 無事に姫を国まで送り届けた私たちは、姫の国に歓迎された。姫が女の格好をしていることに誰も突っ込まず、むしろ当然のように扱われていることから、今回のようなことは初めてではないようだ。哀れむ視線を姫に送りながら王宮の奥に足を進めていると、一人の男性が現れた。姫より頭一つ分高い彼は、身なりがとてもしっかりしている。当然のように王宮を闊歩していることからも、身分が高いことがうかがえた。
 高身長の彼は、私たちの前までくると片膝をつく。姫をここまで届けてくれたことを感謝すると、一通りのお礼を述べた後、彼は私に視線を向けた。切れ長の瞳に姿を映され、思わず退くと、後ろに立っているノイにぶつかる。ノイに謝罪をしようとしたとき、右手をすくわれた。

「美しい」
「…………は?」
「綺麗な、姫方だ。私の妃になってはくれぬか?」
「……っ」

 ストレートな褒め言葉も、プロポーズの言葉を受けるのも、初めてだ。慣れないことに色づいていく頬を感じるも、チョウジたちから送られる視線に口元が引きつる。慌てて手を振り払いノイの後ろに隠れ、顔を半分だけ出してお断りの言葉を告げた。
 床にしなだれて残念がる彼は、呆れたような姫の言葉により顔を上げる。キリリとつり上がった眉、高い鼻、意志の強そうな目に、薄い唇。整った顔をしている彼は、しっかり二本の足で立ち、改めて頭を下げた。

「孔雀凛と申します。この度は兄がお世話になりました」

 深々と頭を下げて爆弾発言を落とした孔雀凛に、姫が怒鳴る。せっかく今まで隠していたのにと嘆く姫だが、すぐに持ち直し、頭にクエスチョンマークを浮かべているアスマ先生たちに改めて自己紹介をした。性別を偽っていたことを丁寧に謝罪した姫は、自分の妹だと、自分より背の高い彼を紹介する。

「今日はここに泊まっていってくれ。馳走をもって歓迎する」

 孔雀姫は男で、凛様が女で、あれ、目の前にいるこの素敵な男性も女? 頭の中で消化しきれない疑問に首を傾げていると、目の前に影ができた。顔を上げるとそこには凛様が立っていて、私の手を両手で握り締める。「私はそなたを諦めたわけではない。明日まで、結婚のことを考えてはくれぬか」真剣な瞳をしている凛様に目を見開いていると、横から伸びてきた手が凛様の耳を掴む。不機嫌そうな顔をした姫は、凛様の耳を掴んだまま王宮の奥に引っ込んでしまった。

121020
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