06

 なんとなく姫と顔を合わせにくくなり、なるべく彼女と離れて行動していたのだが、寝る間際になり彼女と寝室をともにしなければならないことに気づいて嘆いた。(建前上は姫様なのだから、みんなで雑魚寝というわけにはいかない)
 せめて二人きりにならないようにとノイに一緒に寝ることを頼むと、彼は暫く悩む素振りを見せてから頷く。なんとか姫と二人きりにならなかったことに安堵し、 川の字に並べた布団の真ん中に姫を寝かせ、両脇を固めるように私とノイも布団に入った。
 野宿するだろうと思っていた予想が大きく外れ、広い温泉と柔らかい布団に入れたことに満足して眠りに落ちようとしたとき、窓の外が光る。チカチカと壊れかけの電灯のように光るそれが雷だと気づいたのはすぐのことで、地鳴りのように響く音に耳を塞ぐ。暫く経っても雷はおさまるどころかますます強さを増し、大粒の雨が空から槍のように降ってくる。
 隣の姫を見ると、彼女はぐっすり眠っていて雷に気づいた様子すらなく、少しだけ寂しい気持ちになった私は頭まで布団を被った。
 ゴロゴロ ゴロゴロ……ガシャーン!
 耳元でタライをひっくり返したような大きい音が鳴り響き、思わず悲鳴を上げる。歯を食いしばり、できるだけ楽しいことを考えようとするも、ガラゴロと暴れまわる雷の音を誤魔化すことなんてできず、小刻みに体が震えた。
 多少の雷くらいなら平気だが、生まれて初めて聞くような雷の荒れ具合にすっかり萎縮していると、頭の上から声がする。私の名前を呼ぶ声に恐る恐る布団から顔を出すと、暗闇に溶け込む黒の装束を身につけたノイがいて、彼の腕が伸びてきたかと思うと腕の中に引き込まれた。

「雷が、怖いのか?」
「ち、がう」
「そうか」

 ノイの服を握り締め、おずおずと体を寄せると彼は切なそうに囁く。妬けるな、と言ったノイの言葉の真意がわからず首を傾げるも、再び鳴り響いた雷に思わずノイに抱きつき、鼓膜を激しく揺する轟音から少しでも逃げる。背中をさするノイの手に落ち着いては雷に驚かされ、雷の勢いがおさまる頃にはすっかり疲れてしまい、ノイに体を預けてしまっていた。

「ヘンリーは、警戒心が足りないな」
「え?」
「そう易々と、男を信じるものじゃない」
「……そんなこと、わかっているわ。男だろうと女だろうと、ね。親友さえも疑えって、アカデミーの教科書に載っていたもの」
「そういうことじゃない」

 私を布団に戻したノイは、私の瞼の上に手を乗せる。視界を遮る手を退かそうとしてもノイが離してくれることはなく、布団を口元まで引き上げてノイが次の言葉を発するのを待つ。

「――もう、眠れそうか?」

 なにか深刻なことを話しそうな雰囲気だったというのに、そう言ってノイは腰を上げてしまう。顔から離れていく温もりが私を心細くし、思わず彼の手を握り締めるとノイは動きを止めて小さく息を吐き出した。警戒心が足りない、と再び口を煩くするノイの言葉を聞き流して適当に相槌を打っていると、ノイの指が額を小突く。

「聞いているのか?」
「……うん」
「はあ……もう、寝ろ」
「うん」

 昨夜の寝不足が祟ったのか一気に襲ってきた眠気に逆らうことなく瞼を下ろすと、枕元にノイが座り込む気配がした。握ったままの手を思い出し、離してあげなければと思うも、思うだけで行動に移すことができずにいると、強く手を握り締められる。驚いて浮上してきた意識で重い瞼を持ち上げると、ノイのつけているお面を通して視線が絡む。寝るまではいてやる、というノイの言葉に口元に笑みが浮かんだ。

「ありがとう。……――イタチ」

 絞り出すように声を出し終えると、ノイがなにか言葉を発したことも気にせず眠りに落ちた。

121001
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