04

 姫を長距離歩かせるわけにもいかないので、あらかじめ用意していた人間を運ぶカゴに彼女を乗せることになった。カゴを持つには四人必要で、アスマ先生、チョウジ、シカマル、それからノイが協力して運んでいる。カゴを持たずにすんだことに安堵をしてみんなの一歩前を歩いて半日、日が沈んできた頃にそれは起こった。
 暗闇に紛れるように放たれた黒い手裏剣が足元に刺さる。四人がかりで運んでいたカゴが揺れ、バランスを崩し地面に落ちた。カゴの入り口である布がめくれ中が露わになるも、そこに姫の姿はない。――ノイの腕に抱かれている姫を見つけ安心する暇もなく、敵からの攻撃に応戦する。アスマ先生が敵から投げられた武器を払い落とし、チョウジが敵を蹴散らし、シカマルが素早く指示を飛ばす。私は敵の一人の精神に潜り込み、手に入れた敵の情報をシカマルに伝えるとアスマ先生の背後に立った。背中合わせに、必要最低限の言葉で情報を伝える。

「先生、敵は盗賊です。忍になりすまして不意をつこうとしているだけです」
「盗賊? ほう、通りで動きが野性的なわけだ」

 飛んできた刃物をクナイで払い落としノイの様子をうかがうと、その一瞬の隙をつかれ攻撃を受けた。直撃は避けたものの頬を流れる血に舌打ちをし、地面を蹴ろうとしたとき――ノイの慌てた声が聞こえ、思わず振り返る。ノイの腕に姫はおらず、暗闇の中から姫の悲鳴が微かに聞こえた。チョウジとシカマルと顔を見合わせてから頷き合い、地面を蹴る。横から邪魔をしてくる盗賊をシカマルに任せ、チョウジの援護に回った。

「う、動くんじゃねえ! この姫様がどうなってもいいのか!?」

 姫の首に刃物をあてる男の動きが、止まる。心転身の術が成功したのだ。腕に抱えている姫を床に下ろしてチョウジに足を縛ってもらうと術を解く。
 地面に転がっているはずの自分の体に戻ると、なぜか私はノイに抱き締められていた。どうやら私の体を守っていてくれたらしいノイにお礼を言い、姫の元に駆け寄る。怪我はないが体に泥がついておりできる限り丁寧に払っていると姫と視線が絡む。心なしか不機嫌そうな顔をした姫は私の手を払い落として立ち上がった。

「今日はもう日が落ちるわ。この近くに旅館があるからそこに泊まるわよ」

 それから一切視線と合わせようとしない姫になぜそこまで毛嫌いされなければならないのだと眉を寄せできる限り姫に近づかないでいたのだが、旅館に着いて姫が入浴することになり、唯一の女である私がお供することになった。私がついてくることを最後まで渋っていた姫と肩を並べ服を脱いでいると、横から痛いほどの視線を感じる。なるべく気にしないようにしていたのだが、鼻につく鉄の臭いが漂い慌てて周囲に視線をめぐらせ――

「孔雀、姫? あの……なぜ鼻血を?」
「う、うるさい! やっぱり私は一人で入るからお前は待機していろ!」
「そういうわけには……」

 布を姫の鼻にあてがおうと近づくと、近づいた分だけ姫は遠ざかる。それを何度か繰り返し、一つ溜息を吐くと有無をいわせずに姫の腕を掴む。姫の鼻に布をあて、姫の手についている血を近くの水道で洗い流してやると、簡単に浴衣を羽織り姫から離れたところにあるベンチに腰を下ろす。
 ――姫の鼻血が止まった頃、姫を風呂に入るべきか悩み、姫にどうするかうかがうと、また姫が鼻血を吹き出した。慌てて姫に布を手渡していると、背後に気配を感じ素早く振り返る。軽い音をたてて着地をしたのはノイで、なにか緊急事態が起きたのではないかと身構え言葉を促す。……ノイが吐き出した言葉を理解するのに、ずいぶん時間がかかった。

「ヘンリー、そいつは男だ」
「…………は?」
「姫ではなく、殿であると言っている」

 首だけ振り向き姫をうかがうと、姫は鼻から流れる血を両手で押さえながら何度も首を縦に振る。顔が引きつるのを感じノイに視線を戻し口を開く。

「いつから姫が男だと気づいていたの?」
「姫を抱いたときに違和感を感じ、先ほどの二人のやり取りを見て確信を得た」
「やり取りって……ノイ、あなた、いつから見ていたの? ま、まさか、初めから?」

 今は衣服を身につけているが先ほどまで、すっぽんぽんとまではいかないが下着姿になった自分を思い出し顔が熱くなる。平然とした顔で首を縦に振るノイに(お面をしているので実際に顔を見たわけではないが、ちっとも動揺した様子はみせない)、衣服を入れるために備え付けられている籠を投げた。不意をつかれたせいかまともに籠を顔にくらったノイに「どうせ私はちんちくりんよーっ」と半泣きで叫びながら脱衣所を後にしたのだった。

120911
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