02

 夜になったら家に行く、という耳打ちの通り、日の落ちた後にやってきたサクラを家に上げる。いったいなんの用だと早速本題を切り出そうとしたのだが「お茶を用意して」と我が物顔で私のベッドに座るサクラに顔が引きつる。なぜか部屋に隠してあるお菓子の場所を知っているサクラがポテチを開けようとしているのを手裏剣で止め、仕方なしにお茶を煎れるとようやくサクラは話をする体勢になった。

「で、なんの用?」
「サスケくんのことよ」
「だから、それは誤解だって言ってるでしょ」
「そうみたいね。私に気を遣ってるのかと思ったけど、本当にサスケくんとはなにもないみたい」

 あっさりと私の言葉を肯定したサクラに、眉を寄せる。サスケのことでないなら本当になにをしにきたのだろう。私の疑問などおかまいなしにお茶を飲むサクラの肩を人差し指でつつくと、彼女は小さく息を吐いて私に向き直る。

「アンタ、いい加減自分に素直になったら?」

 サクラの意味のわからない言葉に首を傾げると、サクラはあからさまに溜息を吐いて私の髪を引っ張る。痛みに「ギャッ」と叫ぶと可哀想なものを見る目で見られたような気がしたが、真意を探ろうとサクラの瞳を覗き込み――寂しさ、喜び、不安、呆れ。様々な感情が浮かび上がるサクラにますます首を傾げると、頭に拳が落ちてきた。

「顔が近い」
「っ……馬鹿力! もう、なんなのよ!」

「ヘンリー、本当に気づいてないの?」

 鈍い痛みが広がる頭を押さえながら、突然真剣な顔をしたサクラを見つめ返す。気づいていないもなにも、なんの話をしているのだと疑問符を浮かべると、サクラは心底呆れたというような顔をした。

「イタチさんが、好きなんでしょう?」

 疑問ではなく、確信を帯びた声だった。
 サクラには、三年前イタチに告白されたことも、それを受け入れなかったことも教えていた。イタチのことは好きだけれど、そこにもう恋愛感情はないと確かに告げたはずだ。それなのに今更なにを言っているのだと不審がると、サクラは立ち上がる。

「ねえ、ヘンリー。アカデミーのとき、ヘンリーはサスケくんとの仲を応援してくれたわよね。……なんで?」
「なんでって……そんなの当たり前じゃない」
「もしヘンリーがサスケくんを好きでも、応援してくれた?」

 顔に影を落としたサクラの表情をうかがうことはできなかったが、すぐに答えは出た。

「馬鹿じゃないの。誰が好きな人と他の人を応援するのよ」

 いくら親友といえどありえない、と言い切ると、その答えを予想していたかのようにサクラは笑う。

「もし頷いたら、顔面パンチをきめていたわ」
「ちょ……サクラの場合、シャレにならないわよ」
「ふふ〜、ヘンリーは軟弱だものね」

 怪しげな笑みを浮かべるサクラから距離をとるとその距離を詰めるようにサクラが近づいてくる。腰を折り曲げたサクラは私の頬を両手で挟み、顔を近づけてきたかと思うと思い切り額をぶつけてきた。あまりの痛みに涙を浮かると、自分でやっておきながらサクラも相当痛い思いをしたのか鼻をすする。

「もしヘンリーがサスケくんを好きだったら、」
「それは誤解……いた!」
「黙って聞いてちょうだい。……もしヘンリーがサスケくんを好きだったら、応援なんてしないけど、邪魔をするつもりもなかった。ヘンリーになら、サスケくんを任せてもいいと思ってたもの」
「……随分上から目線ね」
「サスケくんをとられるのは悔しいけど、親友の恋が叶うってことだから……それもいいなって思ったの」
「…………」

「ヘンリー、大切なことを見落とさないようにね」

 意味深な言葉を残し、サクラは帰って行った。

120904
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