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 ナルトが砂の我愛羅と戦ったと聞いたとき、上手く呼吸ができなくなった。勝ったのはナルトだというし、我愛羅は戦いの後落ち着いてきたと聞いたが、それでも我愛羅には恐怖心しかなく、極力近寄らないようにしていた。それなのに――

「…………」
「……」
「…………あの、なにかご用ですか?」

 私の目の前に腕を組んで立っている人物は間違いなく我愛羅本人で、黙ったまま私を見続ける彼に我慢できなくなり自ら声をかけてしまった。我愛羅の指がピクリと動き殺されるかもしれないと身をすくませるも、一枚の紙を取り出した彼はそれを私に差し出してくる。「山中ヘンリーで間違いないな」という言葉に頷き受け取った紙を広げると、見覚えのある筆が並んでいた。

「シカマルからだわ。……砂の任務に協力って……えっと、あなたと一緒に任務に行けってことかしら」
「ああ。隠密捜査のエキスパートと聞いている」

 木の葉隠れの里から許可も下りているようで、赤のインクで立派な判子が押されている。つまり、これを断れば里の信用問題にも関わるということだ。あまり気は進まないものの、我愛羅に従い里の外出手続きを済ませる。

「……わざわざ風影さまが来るなんて、よっぽどの案件なんですか?」
「ああ、信用ない者には任せられない」
「なら風の国の人間の方が……」
「山中一族に伝わる心転身の術を高く評価している。失敗は許されないんだ」

 重々しく言う我愛羅に身が引き締まる。風影にここまで言わせてしまっては、断るどころか失敗することすら許されないだろう。まだ内容も聞いていないというのに「必ず成功してみせます」と言わせるほどの重みがその言葉にはあった。

 我愛羅に連れられやってきたのは人で賑わう繁華街だった。一人の男を指差し我愛羅は言う。

「アイツが砂の情報を外に流している疑いがある」
「だけど迂闊に手出しできない人物なのね? わかったわ、側近の者に心転身の術をかけて調べるから……そうね、一週間時間をもらえるかしら。一日かけて側近の言動をコピーして、残りの六日で情報を引き出してみせるわ」
「…………」
「一週間じゃ長い?」
「いや、問題ない。聞いていたより優秀そうで驚いただけだ」
「…………シカマルのやつ、」

 我愛羅に何を吹き込んだんだとこの場にはいない幼馴染みを恨み眉間に皺を寄せる。不思議そうに首を傾げる我愛羅になんでもない、と言って早速側近の身辺調査をするために動いた。

「あの茶屋の売り子に心転身の術をかけるわ。体はよろしくね」

 我愛羅が首を縦に振るのを確認してから印を結び、笑顔が可愛らしい女の子の体に入り込む。するとタイミングよく目的の人物に声をかけられた。注文をとるためのメモ帳を前掛けから取り出し、男の目の前に歩み寄る。言われた料理を書いていきながら男の口調、仕草、癖を読み取っていく。その後も男の動向を見張り粗方ではあるが彼に成りきることが可能だと判断し、我愛羅に報告する。

「風影さま、」
「我愛羅でいい」
「? 風影さまを呼び捨てにするわけにはいけません。下に示しがつかなくなりますよ」
「構わない」

 目の前の人物がなにを考えているのかわからなかったが、本人がそういうのならと「我愛羅」と呼ぶと少しだけ彼の表情が動いた。

「我愛羅は、一週間私についてくださるのですか? 風の国に戻らなければならないなら、キチンと我愛羅に報告しにいきますが」
「いや、一週間はヘンリーといる。体を守る者がいないといけないのだろう」
「そうですが……風影さまの手を煩わせるわけには、」

 風影、と呼ばれるのが余程嫌なのか目を鋭くさせた我愛羅に慌てて訂正をする。

「俺が構わないと言っている。くどいぞ」
「……申し訳ありません」

 初めて会ったときのような怖さは薄れていたが、口数が少ない上に意外と頑固な性格をしている我愛羅に戸惑う。これから彼と一週間をともにするのだと思うと、知らずうちに口から溜息が零れた。

120822
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