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 黒い紐を光にかざすジョージさんが、首を傾げている。

「これ、何の材料を使ってるんだい? それがわかれば、直せるかもしれない」
「え? あー、えーと……」

 視線を逸らし言葉を濁す私に、怪しむような視線を寄越すジョージさん。えーと、あのー、と繰り返していると、焦れたジョージさんがぐぐっと顔を近付ける。
 ジョージさんの肩に手を置き、体ごと押し返すと彼は不満そうに顔を歪める。唇を尖らせるジョージさんを見ていたら観念しそうになり、グッと唇を噛む。それでもしつこく聞いてくるジョージさんに、ついに根負けした。
 自分の髪を、一束摘む。

「これよ」
「え?」
「髪を使って、作ったの。ちょっと特殊な魔法で、髪しか材料にならないのよ」

 溜息混じりに、紐の作り方の説明をする。髪に特殊な呪文をかけ、さらにその呪文とは別の魔法をかけることによりあの紐は作るのだ。貧相な見た目に反して手間のかかるその魔法具は、量産には向いていない。

「特殊な魔法って?」
「日本の魔法よ」

 私にとっては馴れ親しんだ魔法だが、イギリスでは珍しいものらしい。以前、休み時間に自分の髪にその魔法をかけて遊んでいると先生にまで珍しがられ、イギリスでは「特殊」な魔法だということを認識した。
 この魔法にはネックな部分がある。自分の体にしか、効果がない魔法なのだ。そのせいで、世界的に広まることはなかったのだろう。

120416
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