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 演習用の箒をこっそり持ち出し人気のない場所を探していたら、いつの間にか危ないと評判の森まで来ていた。森の中から聞こえてくる動物の鳴き声に尻込みしたが、この辺りなら人は来ることがないだろうと箒に跨る。

「気持ち良い」

 ここ数ヶ月使うことのなかった日本語が口から躍り出る。ぶわりと舞い上がる髪を押さえながら笑みを浮かべた。
 大木を軸にしてくるくる回ったり、落ちていく木の葉を捕まえて遊ぶ。ふ、と空を見ると綿毛のような雲がゆっくり流れる青空が広がっていた。空がよく見える位置まで飛んでいきぼんやり眺めていると、遠くで誰かが飛んでいることに気付く。羽が生えているかのように自由に飛び回るその人物に見惚れていると、彼が少しずつコチラに近付いてきたので慌ててその場を離れる。

「王子様?」

 爽やかさと甘さを兼ね備えたフェイスに、がっしりした体格。何より箒で飛んでいる彼は美しく、小さい頃に読んだ絵本の王子様そのものだった。

120329
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