*134 今から数十年前、一人の青年が恋人を助けるために禁忌を犯した。その後彼は忽然と姿を消したが、数年後に遠く離れた国で発見されたという。 「その青年には記憶がなかった」 「記憶が?」 「ああ、だから無事だったにも関わらず家に帰らなかったのだろう。ただ、不思議なのは……」 彼が姿を消してから数年、感知魔法を駆使して世界中を探しても、彼は見つからなかった。それなのに何故数年後に突然現れたのか。 「時空を移動したという説が有力でね。禁忌を犯すと過去、未来に飛ばされてしまうんじゃないかと研究者は言っているよ。だからもしかしたら、今まで消えた人たちもある日突然姿を現すかもしれない」 「じゃあもしかしたらヘンリーも……」 「可能性はある。だが、またヘンリーに会える確率は低いと思っていてくれ」 今までも発見された人物は一人しか居ないんだ、と決して大きくはない声が響く。 ヘンリーがこのことを前々から企んでいたのだとしたら、何故僕に言ってくれなかったんだろう。彼女が消えて、僕がどんな気持ちになっていると思っているんだ。 誰かの命より、ヘンリー一人の命の方が重く感じてしまうことは、いけないことなのだろうか。もし彼女が戻ってきてくれるというなら、喜んでこの命を捧げよう。 121012 目次/しおりを挟む [top] |