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 死を防げば雪と仲直りできると思っていたのかもしれない。私は「死」を探し始めた。次々と頭の中に入ってくる映像に酔ったときもあったけど、四六時中周囲の未来を受け入れた。

「ヘンリー?」
「……見付けた」

 手を繋いでいるお母さんが不思議そうな顔をしているのも気にせず駆け出す。腕に抱いたのはあと数分で事切れてしまう子猫だった。今度は離さないようにしっかりと猫を抱き締めていると「キャッ!」とお母さんが悲鳴を上げる。

「ヘンリー! 腕が……!」
「お、お母さん、腕が消えてる……」
「まさか、その猫が死ぬのが見えたの!? 離しなさい! 離しなさいよ! ヘンリー!」
「でも、」
「早く!」

 お母さんが猫を引ったくりその場に置くとほんの数秒で猫は不運な事故により死んでしまった。死んじゃった、と猫の骸を見ていたらお母さんに頬をひっぱたかれる。

「死ぬものを助けるのは禁忌だと、何度も教えたでしょう!」
「でも、死ぬのは止めなきゃいけないよ。雪が言ってた」
「……ヘンリー。あのね、生き物には寿命が決まってるの。あの猫は他の猫より短い寿命だっただけなのよ。寿命で死ぬことこそが幸せなのよ」
「嘘! いつもお母さんはそう言ってるけど、死んだらたくさんの人が悲しむんだ!」
「ヘンリー……――そうね、もうそんな言葉じゃ誤魔化せないほど大人になってしまったのね。ヘンリー、母さんは貴女に消えて欲しくないの。ヘンリーより大切なものなんてないの。禁忌を犯しては駄目よ」
「でも、」
「わかって、わかってちょうだい。でもそうね…もし貴女が大人になって、本当に大切な人が死にそうになったら仕方がないわ。でも、大人になるまでは絶対に駄目よ。いい? 約束よ」

 そう言ってお母さんは破れぬ誓いに相応する契約を私と結んだ。

121002
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