*115 バレンタイン。広間の扉を開けて視界に映りこんだのは目のチカチカするようなピンク色だった。部屋を間違えたと慌てて扉を閉めようとしたが扉の中には生徒も先生も確かにいる。 「このピンク、なにかしら?」 「……ロックハート先生じゃないかしら? あのローブ見て」 「なぜこのピンクにしたのかしら。もう少し色の抑えたピンクにすればいいのに」 広間のどこかに落とし穴があるかのように恐る恐る足を動かすアダムスさんの顔色は悪い。今にも倒れそうな彼女を心配して今日はレイブンクローのテーブルに座ることにした。 席に着いても食べ物に手をつけようとしないアダムスさんを見て食べ物をいくつか布に包むと早々に食堂を後にする。早足に廊下を歩いていると、目に痛い色の服を着たロックハート先生と擦れ違う。ますます顔色を悪くしたアダムスさんを気遣い小走りで過ぎ去ろうとしたとき、ロックハート先生に名前を呼ばれた。 「な、なんでしょうか、ロックハート先生」 「この前の話の続きをしてあげようと思いましてね、探しましたよ」 ニコニコ笑い楽しそうに話し始めるロックハート先生に顔をひきつらせ、泥を吐き出そうな顔をしているアダムスさんに先に戻るように促す。限界なのか、彼女は口元を押さえ頭を下げると去っていく。しばらくはアダムスさんを心配していたが、授業が始まる間際になっても喋り続けるロックハート先生に、今度は自分の心配をするはめになった。 120821 目次/しおりを挟む [top] |