私、怒ってます。

というより正直拗ねてます、あと悲しいかな


災難ってのは続くもので、

バイト先でミスするし帰る頃には土砂降りの雨。

ずぶ濡れで帰ってる途中すっころんで膝と肘をすりむくおまけに血も結構でてる

痛いの我慢してそのままアジトに帰れば心配してたのか、キドが傘を2つもって玄関前にいた所で鉢合わせ。

私の姿を見るなり青ざめて腕を引き連れられた。
濡れてるからと言っても聞いちゃくれないしリビングに行けば私が大事にとっておいた人気で手に入りにくいアイスを満面の笑みで食べてるカノを発見…

――持っていたバックを落とした。

『……』

「ん、あ…おかえり…って、どうしたの!?怪我してるじゃん!!」


悪気ないのか、または欺いてるのか
アイスの事には全く触れず私の心配をしてきた。

唖然としてるとふわりと真っ白い髪がふと視界にはいる、マリーだ。

「おかえりなさ…っ!?」

血だらけの私を見るなり硬直。
固まるマリーを見ると手のなかにある物を見て背中にゾワリと嫌な電気が走った。

『マ、マリー?…その、布でできたお花って…』

ふるふると震えながら指す

「…あ、えっと…綺麗な布があったから名無しにコサージュ作ったの…!」

その後怪我を心配する言葉を言ってたけどもうそれどころじゃない。

その布、確かに綺麗だよ?
淡い桃色と黄色のグラデーションになっててね?


………私が大事にしてたハンカチ…なんだけどなぁ…

想いを寄せるセトがバレンタインのお返しにってくれた初めてのプレゼントだった。

マリーも多分、悪気はない。
だからこそ、尚更彼女には怒れない…
だって多分おお泣きして部屋に籠もっちゃうのは安易に想像できるから。

カノは返答次第ぶっ飛ばそう、そうしよう

だけどなんでかな、悲しくなってきた。怒りを通り越したのだろうか…目頭が熱くなって溢れ出す雫は止まらない。

ずぶ濡れのせいで泣いてることも多分わからないだろう。

やり場のないこの気持ち、やだな…なんか気持ち悪い…
「痛い?大丈夫??」

俯いて動かない私の肩にカノが手を置いた瞬間。

バチンッ………!!

「っ!?」

その手をおもいっきり叩いてしまった、と同時にキドが救急箱をもって登場。

「名無し…どうした!?」


緊迫した空気に驚くキドは救急箱をテーブルに置くと急いで寄ってきた。

「カノ!!お前……」

「ち、違うって!!」

何かしたのかとギロリと睨んだキドに慌てて違うからと否定した。

「名無し…?どうし『うるさい!!』


……ついに言ってしまった。
こうなってはもう感情を抑えるなんて無理な話で、マリーの言葉を遮って怒鳴ったものだから酷く怯えキドに抱きついた。

二人も私が声を荒げたものだから肩を揺らし驚き目を見開く。

「お、おい…」

それでもキドは話しかけてくる。ホント、優しいよね…でも。


『…こんな怪我、ほっとけば治るから…ほっといて』

―――『私に構わないで』

捨て台詞をかましてバックを拾いリビングを出た。

自分の部屋に入るなりバン!!っと音を立てバックを投げ捨て着替えをするまでもなくお風呂に行き、軽く汚れた身体を流して湯船に浸かる。


『なにしてんのよ…』

ボソッと呟き膝を引き寄せ蹲った

ちょっと災難というか不幸が続いただけで…つい当たってしまうなんて。

マリー今頃泣いてるだろうな…
カノにもキドにも酷い事したし言ってしまった…

ぐるぐると嫌な気持ちが心を支配していく…

一瞬止まった涙も再び流れはじめた。


『バカだな…』

こんだけの重い空気を作ってしまったんだ。会わせる顔がない…
セトはまだバイトから帰ってないから知らないだろうけど、皆の状態見たら絶対聞いてくるだろうし、その原因を作ったのが私だって知ったら嫌うだろうな、あぁこれは嫌われルート確定だわ。


なんか、もう…どうでもいいや。

急激に冷めた怒りと悲しみの後にやってきたのは虚脱感。


『どうにでもなれ…』



いつもより少し熱めの湯船が妙に心地よく感じて目を瞑ればそのまま意識を手放してしまった―――。




それから一時間後にセトが帰宅。

リビングに入れば名無し以外の三名がソファに座りどんよりしてた。空気、重い…


「あれ、どうしたんすか…?名無しは??」


今日は自分より先に帰ってくる事を知ってたので足りない事に少し疑問を持つ。そして皆の状態にも…

「……あぁ、セトか、おかえり」
「た、ただいまっす…」


幾分低いトーンで喋るキドだがこの落ち込み方はハンパナイ。
カノも俯いたまま全く動かないしマリーは服を握りしめ静かに泣いている


「なんか…あったんすね…」


苦笑いで言うなりキドが先程の事をポツリポツリと話しはじめた

「―――成る程、それはカノとマリーが悪いっすね」

「「えっ…」」

話しを聞き終えたセトの最初の言葉にぴったりハモって顔を上げるお二人。

「どういうことだ……?」

キドはてっきり自分が余計な事をしたからだと思っていた、

「まずカノ、アイス食べてたみたいっすけどソレ、名無しが大事にとっておいたやつっすよ。それからマリー、コサージュに使った布…それ名無しのハンカチっす」

それだけ言えば瞬間青ざめていくカノとマリー…。


「え、そうだったんだ…」

「ど、どどどどうしよう…」


「とりあえず、お風呂入ってるみたいだから上がったら謝るっす」
「俺も一緒に謝るよ」

さらに泣きじゃくるマリーの頭をなでなから優しく言うキドだったか、ふとなでている手を止めた


「…カノ、今何時だ?」

「え、9時だけど」


突然の質問に首を傾げるも答えたカノだが、聞いては眉を顰める…


「…遅いな…」

「なにが??」

「名無しだよ、風呂に行ってからもう一時間は経ってる…」




「「「「…………」」」」




まさか、と頭によぎる。


キドが勢いよく立ち上がり走って風呂場へ行き声をかけるも無反応。

「開けるぞ」

そっと開けて中を見れば真っ赤になった身体、そしてぐったりとした名無しが目に入った……


「っ!?おい!!しっかりしろ!!」

慌てて中に入り肩を揺さ振るが目を瞑ったまま開きもしなければ返事もない。


キドの声に風呂場の前まできたセトが声をかける

「どうしたんすか!?」

「セト!!名無しが!!名無しが!!」

取り乱したような返事に心臓がドクンと跳ね、風呂場に入ればキドが必死に肩を揺さぶり起きてくれと声をかけながらもぐったりしてる名無しの姿。

「名無し!!」


裸だとかそんな事きにしてる暇などない。早く湯船から出さなければ

考えるよりも身体のほうが早く動いてた。

軽々と抱き上げればキドはすぐにバスタオルで身体を包み、それから自室へ運んで濡れたままだけどそのままベッドへ降ろす。

「冷やすもの持ってくるから服、着せてくださいっす!!」

薄着でいいっすからと付け足すなり走って行った。

言われた通り下着、キャミソール、寝巻用の短パンを着せていく。その間も何度も呼び掛けるが目を覚ましてくれない。 小さく呼吸をしていたが身体が熱い…少しばかり苦しそうで見ていたキドの瞳にじわりと涙が浮かんだ。

着せおわるとセトが部屋に入ってきてあとはまかせてと言いキドを部屋から出した。

二人に状況説明と、あと起きた時に居たら気まずいだろうからと少し悲しそうに眉を下げて言うセトに「わかった、後は頼む…」と頷き部屋を後にした。

熱くなった身体を冷やすために氷枕に濡れたタオルを額に当て、怪我してた所を手当てすればベッドに座り、うちわで身体全体を優しく扇ぎながら苦しみを浮かべる顔を見て小さく笑う。

「無理もないっすね」

普段めったに怒ったりしない名無しだ。

話しを聞く限りじゃ今日1日災難続きとみた
いずれ目を覚ますであろうから、起きたらゆっくり話しを聞いてあげようと思いながら扇ぎ続けた。


それから30分―――。


『んんっ…ここは…』

「目、覚めたっすね」

『セ、ト……??』


ぼーっとする意識の中聞こえた大好きな人の声。

あれ、私お風呂入ってたんだけど…なんで部屋に……??

『どうして…部屋に…?』

「湯船でのぼせてたっす」

『あぁ…そうだったんだ、じゃあキドが運んでくれたんだね』

服もきてるし、と付け加えるがちらりとセトを見るとうちわで顔を隠している

『え、どうしたの…』

「ご、ごめん…緊急事態だったから…俺が…」

名無しには見えないがしょうがないとはいえ全裸を見てしまっているセトの顔はそれはもうりんごのように真っ赤に染まっていて。

同じく運んだのは自分だという彼の発言に、とたんに恥ずかしさで満たされた


『み、みた…の?』

「…はいっす…すみません」


『…し、しょうがないよね、セト…ありがとうね』

裸を見られたけど、でも助けてくれたことにかわりない。

もう割り切ってしまえと言い聞かせ素直にお礼を言った


「っ…いや、でも今日はほんと、災難だったみたいっすね」

キドから聞いたよと言うがそれはやはり自分の言動も聞かされてるというわけで…

『…、最低だよね…私』

嫌われても文句いえないよね、と力なく笑いながら上半身だけ起こすと微かに震える肩を優しく大きなセトの手が包んだ。

「二人とも、悪気はなかったみたいっす。事情を知ったら謝りたいって言ってた…」

それに、と続ける

「名無しも少し言い過ぎた所もあるけどこればっかりはしょうがないっすよ」

『っ…でもハンカチが…』

セトの優しい声につい本音を零してしまう

「あれ、大事にしててくれたみたいっすね…」

「嬉しいっす」と一段とにっこり笑うセトに片目から静かに雫がこぼれた…

『当たり前でしょ…だって…』

「…だって?」


『…好きな人からの初めてのプレゼントなんだからっ…!!』

感情が高ぶりさらりと告白してしまった自分に、はっとするが気付けばセトの胸の中…


「俺も…ずっと前から好きだった」

『!?』

うそっ…だってセトはマリーの事が好きにみえたのに…私の事を…??

「ハンカチがコサージュに変身したって事で、どうか受けとってほしいっす…きっと似合うから」

マリーも名無しの為に一生懸命作ったはずだからと

「そうっすね…今から付き合うって事で、後で俺からプレゼントさせてほしいっす」


つ、付き合う…!?

『わ、私と…?付き合って…くれるの??』

その言葉に抱き締めていた腕をほどき顔を見合うと

「お互い同じ気持ちなのに、名無しは俺と付き合いたくないんすか?」

意地悪そうな表情で問いかけられた。


『つ、付き合いたい…です』


そんな顔…ずるい。

答えればよしよしと頭を撫でられその手を頬にもっていく


「…好きっす…名無し」

『私も、好きよ…セト』

そのまま引き寄せられ軽くキスをすればお互いほんのり頬が赤い。


この後、リビングに行けば物凄い勢いで謝られた。
なぜかキドも謝ってきて慌てて私も謝り返し、無事仲直りできました。

マリーが作ってくれたコサージュはお気に入りのカバンにつけて大事にしてる。
カノは次の日、あのアイスを捜し回って買ってきてくれたので美味しくいただきました。


そしてそして―――。


セトと付き合ってから1ヶ月、記念日となったあの日にちになんとペアリングをプレゼントしてくれて……シンプルなシルバーの細めの指輪が今日も私の右手薬指にはめられています。

光にキラリと反射する度ニヤニヤしてしまう…。

セトもバイトの時以外は毎日はめてくれててそれでもニヤニヤ―――――。




「いつか、左手の薬指にも指輪はめるっすから…それまで待っていてくださいっす」


『……はいっ!!』



恋の女神は突然に

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