※結構長いお話です。XYの設定が出てきます。





出発地点は同じだった

はじめてゲットしたポケモンはピカチュウ。

私が一人旅をするのを最後まで心配してた彼が「道は一緒だから」と、
共に旅をした先で二匹の兄弟ピカチュウに出会った

最初に貰ったポケモンでバトルスタート―――。

見事に勝利し兄をレッドが、
弟を私がゲットした。


それから暫くの間、一緒に旅を続けてるうちにいつしか恋仲になっていて。

でもある日、私は終わりを告げた―――。

『レッド、私の事は大丈夫だから、先…行って?』

「え、でも」

毎日一緒に居て、尚且つ彼を好きだからこそわかる。


彼はもっと…先へ行きたいのだ。


『レッド、私ね…』


やりたい事がある。そう言って嘘をついた
だからレッドはレッドの道を歩んで…、って背中を押したの

『一人でやらなきゃいけないの、じゃないとレッドに甘えてしまうから』

「……わかった」

小さく頷くとぎゅっと力強く、でも優しく抱きしめてきたので
私も腕を彼の背中に回し抱きしめ返した
暫くして腕を解き互いに向き合うと触れるだけのキスをして―――。


「『さよなら』」



そう言って、私達の旅は終わった…。



それから数年…

私は一人で色んな所へと旅を続け。それなりに名前が知られるようにはなった後、故郷のマサラタウンに戻ってはトレーナーとしての経験と知識を生かし、オーキド研究所で博士のサポートをしている。

そしてレッドは今…シロガネ山に居る


会いに行こうと思えば行ける…
グリーンは食糧配達とかで時々レッドに会いに行っては帰ってきて真っ先に私に彼の報告をしてくれた。

「名無しもバッチ持ってるんだから行けばいいのに」

『ううん、いいんだ。』


あの時、先へと背中を押したのは私だ。
会いに行ったらきっと私…ずっとしまい込んでた気持ちが溢れちゃう。

それに…

彼の噂を聞くと、レッドがまるで別人のようで、ちょっぴり怖かった。


グリーンは

「変わってねぇーよ、アイツはアイツだ」

そう言って優しく頭を撫でてくれる。

『そう、だよね…』

苦笑いを浮かべるとグリーンは大きく溜息をついた。

「全く…名無しをほったらかしやがって…俺なら絶対しねぇのに」

『…ありがとグリーン、でもレッドの旅はまだ…終わってないんだよ』


あそこで、シロガネ山で彼は…自分より強いトレーナーを待っている。

だけどあの山に入ってからもう何年経った?

挑戦しにきた人は多いだろう。

でも誰も勝てないのだ

レッドは強い。頂点と呼ばれるだけの力がある

グリーンでさえ、彼に勝てなかった…。


「…なぁ、名無し?」

『んー?』

「お前さ、トレーナーとしてレッドとバトルしてみないか?」

『…は!?』


何を言っているんだグリーンは。

私がレッドに!?

いやいや無理だ、きっと瞬殺される

『勝てっこないよ〜私じゃ』


「…お前な…それ嫌みにしか聞こえないんだが」


握りこぶしを作ってコツンと私の頭に軽く当てると口元を引きつらせたグリーン


『あいてっ』

「ぴぃーか!!」

「い゛っでぇぇぇ!!」

ご主人を叩いたグリーンを名無しの膝の上で丸くなって座っていたピカチュウが
アイアンテールで手の甲をべしりと…勿論加減をして叩いた。

それでもかなり痛い。

叩かれて赤くなった手の甲をさすりながら涙目になって「わるかったわるかった!!」
とピカチュウに謝ると、「ぴかぴか」とまるで許すとでも言うかのように頷いた。


「…お前さ、もっと自分の強さに自覚したら?」

『自覚??』

はて?と悩む。
私の強さ……?

私は…普通だと思うんだけど…


「お前俺とバトルした時ピカチュウ一匹で倒しただろ」

『え、う…うん』

「それ以外のバトルの時だって俺が見てた限りお前は一度も負けてない、むしろ圧勝してた…似てるんだよ。アイツに」

“戦い方”が。

焦りを一切見せない、底知れぬ強さに身震いさえ憶えるその姿勢が、と続ける。


『そりゃ…レッドと暫く旅してたから…似てるんじゃないかな』


「なら、尚更アイツとバトルするべき相手だと思うぞ」


お前なら…アイツをあそこから動かしてくれる気がするんだ…。

そう心の中で呟くと話を聞いてたピカチュウが名無しの膝の上で立ち上がり
洋服の胸元をぽんぽんっと叩いた。

『ピカチュウ…あなた…行きたいの?』

「ぴっかぁ!!」

『…お兄さんと…戦いたい??』

「ぴかぴかちゅう!!」

ヤル気をみせつけるように、瞳を鋭くさせ尻尾をピンっと張った。


私のピカチュウはレッドのピカチュウと兄弟だ。

一緒に旅をしてる時は軽くじゃれ合う程度にバトルはしてたが本気のバトルは
したことがない。

私は…正直まだ迷ってる…けど、

レッドには会いたい…

あの時、自分のせいでレッドの進む道を迷わせてしまったらと
思い、気持ちを押し殺して送り出した…。

本音を言えばそりゃずっと一緒に居たいよ

大好きだもん、一日たりとも離れたくなんてなかった

でもピカチュウが、私の一番の相棒が行きたいと言っているんだ。

それを止めるなんて私にはできない…

…そうだね、私の旅も…まだ終わってなんかなかったね…

レッドとのバトルが…残ってる。


『…行くよ』

「お、まじか!」

ピカチュウを抱き上げ

『私、レッドとバトルしてくる』

「ぴーかっ!!」

嬉しそうににっこりしたピカチュウにつられ私も微笑むと、早速といったように
机に置かれてたベルトをし、ピカチュウを含め6個のモンスターボールを付けた。

『グリーン、着替えてくるからピカチュウとここで待ってて』

「おう」

ピカチュウをグリーンにあずけると研究所を出て、腰につけてるボールの中から一匹を取り出す。

赤い光の中から現れたのは

『ラティオス!急いで家にいくわよ!』

名無しの言葉に大きく鳴いて姿勢を低くすると上にまたがり研究所から離れた自分の家へと飛んで行った。


その頃研究所では…


「ピカチュウ、名無しはなんで…レッドに会うのをためらってたんだ?」

「ぴーか、ぴかぴかちゅう」

手振り身振りで説明しているが言葉がわかるわけではない、だけどその表情からは、
とても悲しそうな事柄があったんだろうと読み取れる。


「…わかんねぇけど、アイツ…優しいからな…だからこそ自分の気持ちは後回しにする。
きっとレッドの為に、一芝居でもうってたんだろ?」

「ぴぃか…」


グリーンの解釈はほぼ正解といった所で、頷いたピカチュウは耳をしょんぼりと下げてしまった…


「ピカチュウも辛かったよな…」

「ぴか…」

「でも、さっきはよくやったぜ!あいつ、なんかすっきりした顔してた」

「ぴっか!」

グリーンも説得してくれてありがとと言っているかのようにグリーンの服の袖を引っ張り
さっきまで垂れてた耳を再びピンっと立てた。

「俺はさ、どっちも心配なんだよ。レッドはレッドですっかり心は遠くに行っちまってるし、名無しはマサラに帰ってきてからずっと様子変だしさ、まぁレッドの事だろうなとは思ったけどよ。みてらんねぇよ正直…あいつすっかり笑わなくなっちまったし…レッドに直接聞いても曖昧な返事しか帰ってこねーしで…こうなりゃもうバトルさせたらどうだってな!言葉で解決できねぇならバトルが一番いい、そうだろ?」

「ぴかちゅう」

うんうん、と頷く


とりあえず戻ってくるまでテレビでも見てるかとソファの向かい側にある大きなテレビをつけた…すると緊急ニュースが流れていて…


「今朝方、旅をしてるトレーナーがシロガネ山で遭難をしたとポケギアからの連絡が警察へと送られてきましたがその後の連絡がつかず、現在総力を挙げて捜索をしていますが吹雪で視界は遮られ強い野生ポケモン達でかなり厳しい状況とのことです…」

「お、おいおい…こりゃやべぇんじゃ…」


ニュースを見て驚いてると

『グリーン…』

「うわっ!?戻ってきてたのかよ…びっくりした」

『そんなことより…遭難って…』

グリーンがテレビに集中しすぎて名無しの存在に気が付かなかったが内容は彼女の耳にもちゃんと入っていたわけで…。


「レッドに連絡入れてみるわ、っと誰だ?」

グリーンのポケギアに連絡が入る。「はい、トキワジムジムリーダーグリーン…はい、あ、知ってます…はい、わかりました、協力します」

グリーンにしては珍しく敬語を使ってる…

「今警察から連絡があった、野生のポケモンが強すぎて先に進めないから協力してくれって…レッドとのバトルは中断…だな、お前はここで『私も行く!!』

待っててくれと言いたかった言葉を遮って声を荒げる

「…ダメだって言ってもきかねーか」

『うん!きかない!』

「おまえなぁ…」

素直すぎるだろ…と一瞬苦笑いになるもののすぐに真剣な表情に戻り


「お前の強さなら大丈夫だろ、レッドにも一応伝えておく」


そう言うなり外で待っていたラティオスに跨り、ピカチュウを肩に乗せ
グリーンはピジョットを出し跨ると飛び立った。


シロガネ山の付近まで来ると雪がふり風もどんどん強くなってくる

「グリーン!遅い!」

「お前のラティオスが早いんだろ!まぁいい、おれは西の方に行くからお前は東の方へ行ってくれ!」

ラティオスの飛行速度はかなり速い、鍛えられたピジョットでも追いつけないのは当然…、どのみち別々で探す予定だったので先にいけと言うグリーンに

『わかったー!!気を付けてねー!!』

「お前もな!!」


そう言うなりすぐに名無しの姿は消えた…。


「はやっ…てかラティオスなんて珍しいポケモン持ってんのかよ…こりゃレッドの反応が楽しみだなっと、俺達も急ぐぞ!雪で辛いが頑張ってくれ!」

跨ってるピジョットの首辺りを撫でると気合を入れるように大きく鳴くとスピードを速めた。




一方名無し達はもうシロガネ山の中へ入っていて…
低空飛行をしながら探す…

警察が言うにはポケギアの主の名前はヒビキというらしい。

『ヒビキくーん!!』

「ぴかぴかぴー!!」

ピカチュウと一緒に声を上げて名前を呼ぶがそう簡単にみつかるはずはない。

視界はほぼゼロに近く、この吹雪じゃ声もかき消されてしまうだろう…


そのヒビキ君って子も、レッドに挑戦にきたのかな…なら遭難してそのままなんて
そんなの…
でもこの山に入るくらいだから強いはず、きっとなにかアクシデントがあったに違いない。
…怪我してなければいいな…なんて不安だけがぐるぐると廻る。

途中途中野生のポケモンが襲いかかってくるがピカチュウでねじ伏せ時々ラティオスが援護をしつつもどんどん山奥に進んで行く…


暫く進むとラティオスがなにかの気配を感じとったのか知らせるように鳴いた。

『いたの!?』

指示を出さずに方向を変えて進みだした、どうやら人の気配らしい

『急いで!』

名無しの言葉に頷くと一度高度を高くし再びスピードをあげた…
すると見えてきたのは崖、

目を凝らしてよく見てみると細く崖から突き出た木に必死にしがみついてる少年が居る…


まさか…

『ヒビキくん!!』

「っ…!?」

自分の名前を呼ばれゆっくりと顔を上げ周りをキョロキョロとする。

生きている事がわかり安心するが動きが鈍い…
こんな吹雪の中あそこにずっと居たんだ、凍傷は避けられない…
どのみち危ない状況だと早くなる鼓動。


『大丈夫!?ヒビキくんだよね!?』

「は…はい…」

真っ白になった肌に唇は紫色に変色している…
ふとみると荷物もモンスターボールもないではないか…

『ポケモンは…?』

「あ、この上にあるはずです…足すべらせちゃって」

その時ベルトが外れて…ポケギアも、手が滑ってこの下に…
なんて力なく笑うヒビキ…


そうか、だからずっとここから動けなかったんだ…。

『もう大丈夫、今助けるから…』

ラティオスが慎重に彼に近付くがこの猛吹雪の風でふらつく…

ヒビキも力を振り絞り腕を伸ばしてくるがなかなか掴めない


『ラティオス…頑張って…』

苦しそうに返事を返しながらぐぐっと近付きヒビキの手首を掴んだ。

と、その時…


ゴオオオオオッツ!!!

『きゃっ…!』

引っ張ろうとした時さらに強い風が吹いて体制を崩してしまった…

ラティオスから落ちた私とヒビキ君だが咄嗟にヒビキ君を空中に投げる

『ラティオス!!ヒビキ君を!!』
その指示にすぐに体制を立て直してヒビキを背中へと受け止めると次は名無しをと
底に落ちていく姿をとらえ向かおうとするが、


『駄目!!行って!!私なら大丈夫だから!!行きなさい!!』


主の怒鳴り声に急ブレーキをかける
ヒビキの服を掴んでいるピカチュウが悲痛な鳴き声を上げた…


『信じて!!』


その言葉を最後に…名無しの声も姿も闇へと消えた…


目を見開くラティオスとピカチュウ…

ヒビキは気を失っている…どのみちこのままじゃ危ない…
ピカチュウは主である名無しを信じ、「行こう!」と鳴けばギリッっと唇を噛みしめたラティオスは上へと上昇し、彼が言っていた通り、崖のすぐ側にあった荷物とベルトに繋がれたモンスターボールをみつけ、それをピカチュウが拾うと急いで山を下りた…

下りると入り口にはグリーンと雪を被ったピジョットが翼を広げ雪を落としていて
警察も集まっている…


「ぴーかーぁ!!!」

「!!ピカチュウ…とラティオスか!!」

地上へ着き姿勢を屈めると、例の遭難してたヒビキが背中に乗っていた

「よくやったぞ…って…おい…名無しは…あいつはどうした…!?」


見つけだせた遭難者に警察が慌てて動きだし、ヒビキを保護し近くのポケモンセンターに連れて行くと言って早々に帰ってしまう。


残ったのはグリーンとピジョットとラティオスとピカチュウ

冷や汗が背中を伝う…居なければいけない人が…居ない。


「ピカチュウっ…!!」

ピカチュウを抱き上げ目線を同じにするとピカチュウはラティオスへと向け、なにかを指示した。
するとラティオスの身体が光りだしグリーンを包むと…

「これって…」

そう、ラティオスのもつ力。自分が見ていた光景を伝える事が出来る能力。

グリーンの目の前で名無しが闇の中へ落ちていく…

あまりにも恐ろしい光景に一瞬声を失った…

そして光が消えると同時に我に返る。

「まじかよ…」

こうしちゃいられないと急いでポケットに入れてたポケギアを出し連絡をとる

「…レッドか!!遭難者は見つかった!!だけど名無しがそいつを助ける時
崖の下に落ちた!!…ってレッド!!おい!!聞いてんのかっ…」

グリーンの言葉を聞き終える前にどうやら切ったらしい。
あいつの事だからすぐ探しに行ったのだろう…

「俺達も行くぞ!ラティオス!道案内してくれ!」

するとグリーンに背を向けた

俺に乗れと言っているようだ。

たしかに、先程ピジョットは飛び回りすぎて体力もキツイ…
それにラティオスの方が速いしまだ体力も十分あるようだ。

「よし、頼むぞ!ピカチュウ!」

「ぴっか!」

グリーンの肩に乗り、ピジョットをボールにしまうと
すぐに飛び立った。


「頼む…生きててくれっ…!!」






***

少し前、崖の下へと落ちていく名無しは腰についてるボールに触れようとした。


……しかし


『ゔっ』

尖った岩肌に強く叩きつけられてしまったのだ

これ以上落ちることはない…が、全身に走った鋭い痛みに目が眩む。

つうーっと頭からなま暖かい液体が流れる感覚がした

『やばっ…』

再度ボールを取ろうとするが意識がだんだん遠くなってくる……

身体を動かす感覚もない

『…レッ……ド…』

ふいに呼んでしまった彼の名前に涙が込み上げて…


伸ばした腕がぱたりと落ちると…………意識を手放した。


「名無し…!! 」


リザードンに乗ってきた彼、レッドはグリーン達よりも早く名無しを見つけた、が。

岩肌を真っ赤な血で染めてる光景に血の気が一気に引く

リザードンから飛び降り岩肌へと着地するとそっと抱き上げ口元に耳を近付ける…大丈夫だ、まだ呼吸がある。

「リザードン、山を降りる」


「…グワウ!!」

レッドの顔を見て一瞬リザードンの返事が遅れた…
長年連れ添った主の、今にも泣きだしそうな…こんな歪んだ表情を見るのは初めてだったからだ。

姿勢を立て直すとレッドは名無しを抱き上げたまま軽々飛んで跨る。

しっかり乗ったのを感覚で確認すれば、大きな翼で一気に上へと上昇した

崖から抜け出すと丁度グリーン達と鉢合わせし、名無しの状態を見たグリーン達は顔を真っ青にし慌てたが、レッドに喝を入れられ正気になるとグリーンが先頭になって山を下りればそのまま急いでポケモンセンターへと向かう。


速度の早いラティオスとグリーン達は先に行って知らせてくると言い残し文字通りすごい早さで先へと飛んで行った。


リザードンも精一杯の力で飛び速度を早める

抱き上げてたレッドの腕から名無しの血が滴り落ち、服を血の色で染めていく…
元々赤い服を着ていたが血の色の方が幾分黒い…袖の白い部分は勿論、赤い部分もはっきり"血"だとわかる色だ。

出血が多すぎる…

不安と焦りが頂点に達したその時、、、


『うっ……』

「!!、名無し…名無し!!」

意識を取り戻したのか、瞼がゆっくりともちあげられた


『レッ…ド…?』

「うん」

『…久しぶり、だね』

「…うん」

『背、伸びた…?』

「っ…うん…」

『レ…レッド…』

「もう、喋っちゃ駄目」

『……』


頭に響くから、と付け加えるレッドの言葉に小さく頷くと再び目を閉じ



次に目を覚ましたのはポケモンセンターだった…

『あ…』


「っ!!起きたか!!」

小さな名無しの声に反応したグリーンが、ガタン!!
っと椅子を倒す勢いで立ちあがると顔を覗き込む、次いでレッドの顔ともう一人…


『…ヒビキ、くん?』

「はい!!あの時は助けてくれて、本当にありがとうございました!!」

レッドとグリーンに支えてもらいながら上半身だけ起こすと深々とお辞儀をしたヒビキ

顔をあげると悲しそうに眉を八の字に下げている…。
自分を助けたばっかりに怪我をさせてしまった事にひどく落ち込んでいたようだ
眼の下に隈もできていて…レッドもグリーンもだ。

『うん、無事でよかった』

大丈夫だよとにっこり笑う、が

「お前は無事じゃないだろうが」

心配かけやがって!と怒るグリーンだがすぐに表情をやわらげ

「んでも、本当によかったぜ…幸い傷はそこまで深くなかったみたいだし、意識を取り戻せば2、3日で帰れるってよ……あ、俺ジョーイさんに知らせてくるわ!ヒビキも来い」

「あ、はい!!」



彼なりの気使いだろうか、少しの間だが二人きりになった。


『…レッ「どうして」

『?』

名無しの言葉を遮ったレッドの言葉に俯いてた顔を上げ目を合わせる…


「どうして、あんな危ない事したの」

あんな…とは、名無しが治療中にレッドに詳しく説明したグリーンから聞いたあの時の事。


『ヒビキ君、かなり衰弱してたし危険な状態だったから先に行かせた…それに私の手持ちにもう一匹空を飛べるポケモンが居るの…でも、ボールに手をかけた瞬間岩に叩きつけられちゃって…』

怪我なんてするつもりなかったんだけど…と苦笑いを浮かべると小さく溜息をつかれた。


「頼むから…無茶しないで」

『…ごめん』

「…無事でよかった」

そう言って優しく抱きしめてくれた…

あぁ、こうして抱きしめてくれるのは何年ぶりだろうか、すっかり大きくなってしまった
身体はすっぽりと私を収める。

…好き…大好きだよレッド…


『っ…』

声を押し殺しレッドの胸の中で静かに泣くと、背中を優しくさすってくれた


「ラティオスとピカチュウ…ずっとボールに収まんないで待ってる」

『え…』


腕を解くと大きな窓を開けたレッド。

すると…

『ラティオス!!ピカチュウ!!』

まだ少し痛む身体だが関係ない、ベッドから降りるとピカチュウを背にのせたラティオスが窓から入ってきてすり寄ってきた。

喉を鳴らし喜ぶラティオスに抱き着き撫でる

ピカチュウも胸の中に飛び込んできたのでキャッチし優しく抱きしめた

『心配かけちゃったね…もう大丈夫だからね…!!』

暫く抱きしめていたが

『ぜんぜん休んでないでしょ…ほら、ボールに入って?』

目の前に差し出すボール。

聞けば私はあれから二日間も眠りっぱなしだったらしい、ラティオスもピカチュウもグリーンがボールに入って休むよう説得したがかたくなに断ったらしくこうして今のいままでずっと外から様子を見守ってくれていたのだ…
二匹をみると疲れが浮かんでいるのが一目でわかる。

もう大丈夫だよと安心させると二匹は進んでボールへと入ってくれた。

「ほら、まだ寝てなくちゃ…駄目でしょ」

レッドにひょいっと抱えられ強制的にベッドに戻される

いきなり抱きかかえるものだから顔が真っ赤になってしまった

『…///』

「顔、赤い…熱でもあるの?」

『いじわる』

わかっててわざと聞いてくるレッドに頬を膨らませれば、クスッっと笑った。

あ、そういえば!
言いたい事あるんだと思い出し、レッドの手首を掴む。

『レッド』

「ん?」


『…1週間後、私とバトルしてほしい』

「!!」

名無しの言葉に目を見開く…

『トレーナーとしてシロガネ山に登る。だから…そこで待っていてほしいの』


塞がれてないほうの手で帽子の鐔を下げれば、弧を描くように笑って


「わかった、待ってる」


そう言うなり開きっぱなしの窓へとボールを向ければ赤い光とともにリザードンが現れ窓から飛び降り背に乗るレッド。

「無理だけはしないように」

『うん!!』

笑顔を見せるとまた小さく微笑みそのまま振り返る事もなく飛び去ってしまった。

と同時にジョーイさんを連れたグリーン達が帰ってきて居ない彼の事について聞かれるが、『待っててもらってるの』と言えば理解したのか、「そうか」とだけ言い優しく微笑んだ。


1週間後―――。


ヒュウウウ…と吹雪の音が鳴り響く中、洞窟の前でピカチュウを肩に乗せ見えない先へと視線を向けるレッド。

耳を澄ませば少しずつ、だが確実にサクサクと雪を踏みしめる足音が聞こえた


そして…


『レッド!!』


まだ頭に包帯を巻いてはいるものの元気な姿で手を振る名無しと、後ろにグリーンとヒビキの姿も見える。


「待ってた」

そう言うなり、互いの肩に乗ってたピカチュウがなんの指示もなくいきなり飛び上がり同時に10万ボルトを打ち付けた。

その電気が空中で当たるとバチンッ!!と鳴る音とともに爆発が起きる

「兄弟の挨拶にしちゃあ随分と物騒だな」

「え!名無しさんとレッドさんのピカチュウって兄弟なんですか!?」

驚くヒビキに「そうだよ」と言えば「さっきの10万ボルト、威力ヤバイでしょ!!どちらも強いっすね!!」

と1人興奮する。


『6対6、ね』

「ん、」

ピカチュウを下げ距離をとると、互いにボールに手をかける。


審判するからとグリーンが真ん中の端に立ち、その隣にヒビキが立った

数秒の沈黙後、グリーンの


「始め!!!」


という言葉と共にボールから赤い光が放たれる―――。





まず先に赤い光の中から現れたのはレッドのフシギバナ。
一方名無しのボールからはスイクンが現れる、

ラティオスも珍しいポケモンだがこのスイクンもかなり珍しい

「あいつ…珍しいのばっかもってんな…」

「え…名無しさんって何者…?」

スイクンが出されると一度名無しの方へ向き頷くと彼女もこくんと頷く。
信頼してるんだろう、それにかなり懐いているみたいだしなにより…

「強えーぞ…あのスイクン…ってか、俺ピカチュウ以外のポケモン見るの初めてだわ」


過ごした時間はそれなりにある。

バトルを見たことも何度もあったはずだが、彼女はいつもピカチュウ一匹で圧勝してたのだ。
ラティオスだってこの間初めてみたんだぞ…


そんな事を思っているうちにバトルは開始されていて、

…レッドのフシギバナだってかなり強い。

大きな身体に似合わずの俊敏な動きをみせつけ攻撃をかわしていく…が。

スピードはスイクンの方が上だった

そしてオーロラビームが直撃…急所に当たったらしく、フシギバナは倒れた


「フ、フシギバナ!先頭不能!」


「…よくやった」


ぼそりと呟きながらボールへ戻すレッドは続けてカビゴンをくりだす。

先程ヘドロ爆弾を受けており毒の状態になってしまったスイクンはいくらか速度も落ちるが、ダメージを感じさせない。だが、カビゴンのギガインパクトをくらい、倒れた


「スイクン戦闘不能!」

「このバトル…今まで見てきた中で一番興奮するっす…!!」

瞬きさえできない高速バトルに、審判をしてたグリーンもヒビキも心臓の音が高鳴る


どちらも強い、いや…次元が違う。


スイクンをボールに戻すと
『ありがとう』

と言って次のポケモンを出した。


『サーナイト!いっておいで!』

くりだされたのはサーナイト。

カビゴンに対して効果が抜群な技は持ち合わせていない、が。
そんな事は関係ない
力でねじ伏せる。

レッドもグリーンもヒビキも初めて聞く技で、カビゴンは倒れた

『マジカルシャイン!』

「!」


カビゴンをボールに戻す、次に出したのはラプラス。

互いににらみ合うとすぐに攻撃が交わされたがラプラスの勝利

倒れたサーナイトをボールに戻し投げ出されたボールからはバシャーモ。


一面真っ白な世界の中に燃え盛る炎。

バシャーモの姿を見た時、誰もが思った…。

多分手持ちの中で一番…強い、と


『バシャーモ…メガシンカ!!』

「「「!!」」」


名無しのつけられていたネックレスの石が光るとバシャーモの身体が光に包まれ…
暴風とともに現れたのはさらに進化した姿。


「おい、メガジンカって…なんだよ!?」

「ボクも知りません…」

「…面白い!」

「「!!」」


レッドが…笑ってる?

今まで感情をもろにだす事なんてしなかったレッドが、額に汗を滲ませながらも
心の奥底から楽しんでいるように見えた。

あの姿は…初めて旅をし始めたころの…レッドだ…。


『彼のスピードに…ついてこれるかな』

「!!」


名無しが腕を真っ直ぐつきたてると同時にメガバシャーモの姿が消えた。

目で追うことができない、地面につく足跡でラプラスの周りを移動してるのはわかる…

「周りにふぶき!」

レッドの作戦に頷きラプラスを囲むようにふぶきをふきつける。


『…甘いね』

「っ!!」

『ブレイズキック…』

突然目の前に現れたメガバシャーモに反応できずに攻撃をくらう…

地面に伏したが頭を持ち上げ立とうとするもののダウン


「ラプラス…先頭不能…」


「おつかれ…」

ラプラスをボールにしまうと名無しもメガバシャーモをしまった。

「あれ、戻しちゃうんすね?」

「……」

ヒビキの言葉に反応できないグリーン。


するとお互い一度目を合わせ、頷くと…

「リザードン!」

『ラティオス!』


今度は空中戦に持ち込むらしい。なるほど…
だがさっきのメガバシャーモでもあの脚力があれば問題はないが…

『ラティオスがね、リザードンと戦いたかったみたいなの』

「奇遇、リザードンも」


両者これまた鋭いにらみ合いのあと、空高くへと飛んだ。


名無しもレッドも彼らの戦いを見ずにただ目を瞑ってじっと立っている。


攻撃指示は不要だった。


「す…すげぇ…なんだこのバトル…」

「信頼関係ってレベルじゃない…」


さっきからずっと驚かされてばっかりのグリーンとヒビキ。

「あれ…膝が震える…」

ヒビキも勿論レッドに挑戦するためにこのシロガネ山に登ってきたのだ。

だがどうだ、こんなバトルを見せられてはトレーナーとしての血が騒ぐ、否。
騒がずにはいられない

「武者震いってやつじゃねーの」

空を見上げながら答えるグリーン。


すると数分して爆発音とともに下に落ちてきた…


白煙が舞い、それを吹雪がけしていく…決着は…。


「…っと、ラティオス、リザードン!共に戦闘不能!!」

引き分けだった。

互いにボールへと戻す。

今の時点でレッドの残りは二体、名無しは三体。


「カメックス!」

『ピカチュウ!』


「!ここでピカチュウっすね!」


名無しの足元に立ってたピカチュウが元気よく鳴いて放電袋から電気をバチバチと出す。

防御も攻撃もカメックスの方が上、だが名無しのピカチュウはでんきだまを持たせているので攻撃はいくらかカバーできる。ここは素早さで攻めるしかない。


「ラスターカノン!」

『避けて!そのままでんこうせっかで詰め寄って!』


カメックスの攻撃をうまく避け詰めると加速も加えたでんこうせっかが直撃。

怯むものの、体制を立て直した。

…やはり防御力が高い

「きあいだま」

『っ!ピカチュウ!アイアンテールで上に飛んで!』

ピカチュウめがけ至近距離での攻撃をよけきれずにかすめるがカメックスの水砲にアイアンテールを叩きつけそのまま上に飛んだ。


『十万ボルト!!』


「ぴぃーかぁー!!」


物凄い光の柱がカメックスを直撃…


「カメックス!先頭不能!」


なんとかピカチュウの勝利だ。


「あの十万ボルト…かみなりの間違いじゃ…」

青ざめた顔で言うヒビキに同じく苦笑いを浮かべるグリーン…。


「全くだよ…どんな育て方したらこうも強くなるんだか…」


レッドの残りはあと一匹…ピカチュウのみ。


「…最後だ、行ってこい」

「ぴぃーか!!」

レッドの肩から飛び降り前へ駆け出す。


「ぴか!ぴかちゅう!!」

「ぴぁーか!ぴかぴかちゅう!!」


初めての全力勝負、兄弟対決だ。

兄であるレッドのピカチュウがかかってこいといわんばかりに挑発をしてくる


それに応えるように再び電気袋からバチバチと電気を発せれば


『「でんこうせっか!!」』


両者同じ技でぶつかり合う、爆風で視界がさらに悪くなるが

すぐに電気の光が舞う

「ボルテッカー!!」

『雪に潜って!!』

「なっ…」


レッドのピカチュウのボルテッカーを雪の中に潜りかわす。

シン…っとした瞬間…


『…ボルテッカー』

「っ!避けろ!!」


雪の中から勢いよく名無しのピカチュウが飛び出てきて目の前に迫るが間一髪で避けた。


「アイアンテール!」

厳しい体制からの強烈なアイアンテールをかますと名無しがにやりと笑った
「!!…なに…!?」


アイアンテールを…受け止めていた


『しがみついて、十万ボルト』


「ちゅうううううう!!!」


電気技の効果は今一つのはずだが効いている。


「こっちも十万ボルト!」

「ぴっ、ぴぃかあああ!!!」


ぴたりとくっつきながらレッドのピカチュウも電撃を放つ

このバトル最大の爆発がおこった


中から両匹息を乱しながら傷だらけになっている…



『レッド!あのね!あの時言った言葉、あれ嘘なの!でんこうせっか!』


「知ってた!全部俺の為だってことも!かわしてでんこうせっか!」


『レッド!!私今でもあなたのことが好きよ!アイアンテールで迎え撃って!』

「俺も!大好きだ!十万ボルト!!」

『…だったらもう、我慢しない!最後の一撃よ!ボルテッカー!!』

「こっちもボルテッカー!!」


互いのピカチュウが同時にボルテッカーでぶつかりあった……


決着は…




「…ピカチュウ!どちらも戦闘不能!勝者名無し!!」



『…帰ってきて、レッド…』


バトルが終るとあれだけ吹いてた吹雪が止み、雲の切れ間から青い空が広がった…


晴れた光の中に見える名無しは…泣きながら笑っている。


自力でピカチュウ達は主の元へと戻っていった。


「…もう、此処に留まる理由、無くなった」

『!!』

「…帰るよ、マサラに」

『っ…レッド!!』

雪の中を走り出してレッドに抱き着くと受け止めて抱き合う…


「グリーンさん…なんかボク、泣きそうなんですけど…ってあれ」

「…泣いて…ねぇよ馬鹿!!」

「…グリーンさん、行きましょう!!」

さあさあと腕を引き二人の元へ駆け寄る

「お、おい…」

グリーンの瞳から涙が一つ、零れた―――。


『グリーン…ありがとう…!!』

「うおっ」

レッドの腕から離れると今度はグリーンへと抱き着く名無し。

グリーンがこうして導いてくれなかったら今もこれからも私、ずっと
寂しい恋を続けてた…。

それを終わらせてくれたグリーンに感謝しきれない


『ありがとう…本当に、ありがとう…!!』

「…ああ」

ちらりとレッドをみると頷いたので名無しの背中に腕をまわし
抱き返した。



こうして、バトルは名無しが勝利をし、無事二人の関係も戻り、


荷物をまとめ下山した4人は傷ついたポケモン達の回復をとポケモンセンターにきていて、名無しは三人からあのメガシンカとサーナイトの見せた技についての質問攻めにあっていた。


「メガシンカって、なに?」

「ボクも知りたいっす!!」

「マジカルシャインってなんだ?」


『え、えーっとね!メガシンカってのは、カロス地方に伝わるこの石の事でね…』

そういって首飾りをみせる

『この石ともう一つ、バシャーモならバシャーモナイトっていう石を持たせるの、そうするとこの石に反応してさらにもう一つの進化をするってわけ。進化っていっても元に戻るんだけどね、一時的にすごい力を発揮できるの、ちなみにサーナイトにもサーナイトナイトって石持たせてるから彼女もメガシンカできるわ』

「へー…カロス地方か、行ったことねぇな…」

『んで、カロスにはフェアリーっていうタイプが存在するの、このサーナイトはカロスで出会ったからエスパーとフェアリーをもってるのよ』


「フェアリーなんて初めて聞いたっす!!」


「…ねぇ、俺の手持ちでもその、メガシンカ出来るポケモン居る?」

興味津々のレッドが問う

『リザードン、フシギバナ、カメックスはでき、る………

ねぇ、レッド…当てていい?』

「…ん」

『…カロス地方、行きたいんでしょ』

名無しの言葉にこくんと頷いた。


「まだまだ俺の知らないポケモンも伝説も…技もある、カロス地方…行きたい」


「言うと思ったぜ」

はぁーっと溜息をつくグリーン、レッドはこういう奴だ。


『…一緒に行かない?もう一度、旅する?』

「!!…うん」


あの時に終わった旅の続きを、もう一度始めよう。


それから数日後―――。




『グリーンは行かないの?』

「オレはジムがあるからな、ま!楽しんでこいよ!」

『そっか…ヒビキ君は?…レッドとバトル、しないの?』

「はい!二人のバトル観てたら、まだまだだなって!もっと強くなってから、挑みます!」

「…ヒビキならきっと、強くなる」

「ありがとうございますレッドさん!!」


わざわざマサラタウンまで見送りにきてくれたヒビキ君にお礼をすると

レッドはリザードン、名無しはラティオスをボールからだして跨る。

『博士によろしくね!行ってきます!』

「…行ってくる」


「おー!気を付けてな!」

「また会いましょうねー!!」


飛び立った二人に手をふると振り向いた名無しも、大きく手を振った。




***




暫くの空中移動…


「ねぇ、まだ一匹みてないんだけど」

名無しの腰についたダークボールを見て問う。

バトルの時、一度もださなかったのだ


『この子はね…カロスの伝説のポケモンなの…本当はボールに収まるべきじゃないんだけどね…色々あって、私と共に行く事を自ら選んでくれた』


名前は…イベルタル


「後で見せてほしい」

『うん、じゃあ今日の野宿先でね!大きいからびっくりするよ?』

「…もう色々びっくりさせられてる」

今更?と言うように少し困った顔をしたがすぐに微笑む

『あはは…そうだね』



実はカロス地方では名無しの名前を知らない人が居ないくらい、
彼女は有名なトレーナーだった事を後々気付かされたレッドだった…。


「名無し…何者…?」

『ええっ!?…うーん、レッドの彼女』

「……///」

『あれ、照れてる?』

「…うるさい」



寂しい恋は終わったね



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