放課後までのカウントダウン


「それじゃあよろしくお願いします!また部活で」
「おう。伝えとくな」

綺麗に笑ってぺこりと頭を下げ、一つ下のマネージャーが自分の教室へと帰っていく。
清水が教室にいないとき苗字は決まって四組までやってきて俺に用事を置いていく。

初めは何で俺のところに来るのかなーと思ってたけど、このクラスには我らが主将がいて、その上誰か彼かに呼ばれてよく留守にしていることもあって副主将である自分に声をかけてくるのは極自然なこと、と一人納得した。

「なー菅原」

声をかけてきたのはバスケ部の斉藤だ。

「今のバレー部のマネだろ?めっちゃ可愛くね?」
「ははっ。だべー?」

当たり前だ。しっかり俺たちを見ていてくれて清水と一緒に全力でサポートしてくれる。
そんな二人をみんなが信頼して、可愛く思って、大事にしてる。
何をそんな今さら。そう思っていたけど、目の前の斉藤はもう姿の見えない苗字を追うように廊下を見つめていた。

え、嘘だろ?冗談だろ?


「ダメだかんな!?」
「何でだよ!?」
「いや当たり前だろ!?うちの!可愛い!マネージャー!」

でも俺にとっても可愛い後輩!だとか張り合ってくるけどお前は顔だけしか知らないだろ。俺と話してるあの子しか知らないだろ。

「何でわざわざうちのマネージャーなわけ?可愛い二年なんていっぱいいんだろ、転がってるだろ!そこらに!」
「いや、あの子いつもニコニコしてるし、礼儀正しいし、可愛いし……」
「マジな空気出すのやめてくれます!?」

用事から帰ってきた大地が何事だ?と慌てている。
近くにいた奴から事情を聞くなり困った顔をして俺の名前を呼んだ。

「スガ、とりあえず落ち着け。何をそんなに焦ってんだよ」
「当たり前だろ!斉藤が苗字を好きだっつうんだぞ!?お近づきになりたいなとか考えてんだぞ!?」
「別に恋愛禁止なんて決まりがあるわけじゃないし、そういうのは苗字が判断すべきことなんじゃないのか?」
「大地はそれでいいの!?」
「まあ正直面白くはないな」

ほれ見ろ!だから言ってるだろ!
だけどお前は一旦落ち着けって言ってんの、と自分の席に座らされた。でもまだいろいろ言い足りないし斉藤が身を引いてくれそうな雰囲気はない。
何でよりによって苗字なんだ。

清水程のスルースキルなんてきっと持っていないし、人間離れした嗅覚で危険を察知するあの護衛隊二人組は、清水相手じゃなきゃ能力を発揮できない。
一番心配なのはあの子の来る者拒まず≠ネところだ。
斉藤先輩っていい人ですね?とか言っちゃって、二人の中はどんどん縮まって、それで。

(……そうだよ。いい奴、なんだけど)

許せそうになかった。
みんなの可愛い苗字を誰にもとられたくない。
バレー部のことを一番に考えてくれて俺たちを支えてくれて。

スガさんスガさんって俺を呼んで、授業でわからなかったことを教室まで聞きに来たりとか。
誕生日には俺が好きそうなものをわざわざプレゼントしてくれたり、いつも俺の隣でニコニコ笑っていてくれて……る?


「どうしたんだよスガ。今日は何か変だぞ」


そうだ。変だろこんな。

……こんなの、まるで。


「斉藤。お前は高木とより戻しとけよ。未練たらたらなのバレバレだっつの」
「は、はあ!?別に、アイツはもういいんだよ!」
「それでも苗字はダメだから」

スガ、と大地が諭すような声で言うのも無視してそのまま続ける。

「好きな人いるみたいだし、多分両思いだしな」

「は!?」と二人の声が綺麗に重なるのを聞きながら上機嫌で席に戻る。
さて、健気に想いを寄せてくれていた可愛い可愛いマネージャーに何て言葉を贈ってあげようか。

とりあえず今日もせっせと働いてくれるであろうあの子のことを、下の名前で呼んでみよう。
それから一緒に帰ろうと誘ったらどんな顔をするだろう。
ついさっき自覚したばかりのこの思いを伝えたら。

みんなのマネージャーがみんなの≠カゃなくなるまで、あと少し。


end.
2017.08.10
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