さあ、夢の続きをいまいちど


今日ちょっと寝不足でさぁ。
確かに夜久さんはそう言ってた、けど。


もうすぐ休憩が終わるっていうのに夜久さんの姿が見当たらないのが珍しくて、ちょっと外まで探しに出てみたらまさかのまさか。
ちょうど木陰になっているところで寝転がった夜久さんが、顔にタオルをかけたまま規則正しい呼吸を繰り返している。

寝てる。ぜっったい寝てる。
ドキドキしながら近づいて、こっそりとタオルの端を持ち上げてみれば、薄く口を開けた気の抜けた顔があって胸の辺りがきゅーっと苦しくなった。

こうやって寝顔を拝めるとは思っていなかったのでスマホ、置いてきちゃいましたから……!!!



「夜久さーん、午後練始まりますよー」

形ばかりの小さな声かけなんかじゃやっぱり起きる気配はなくて、ここぞとばかりにしゃがんで顔を覗き込んでみる。

「黒尾さんに怒られちゃいますよー」

いつものおっきな目が閉ざされてるのもそうだけど、普段なら見られないちょっとだらしない顔にドキドキが募っていく。
どうしよう。好きだなぁ。
夜久さんも私のこと、好きになってくれればいいのになぁ。

そっと触れてみた髪の毛はまだ少し汗が乾ききっていなくて、練習中の真剣な姿を思い出してはキュンとしてしまう。


二人きりのせいだからかな。
普段なら絶対に手を伸ばせないのに、気づけば私の指先は夜久さんの眉毛の上を滑っている。

ここがきゅ、と寄せられてリエーフにお説教してる姿ももちろん好きなんだけど、やっぱりこうやって優しい顔してる夜久さんの方が好き。

好き。本当に、大好き。



「もりすけ、さん」


気づいてくれないかなぁ、私の気持ちに。



「……すきです」



言ってしまったことを後悔する間もなかった。
夜久さんの瞼がゆっくりと開かれ、覗き込む私をとらえている。


「名前?」
「ひ……っ!?」

ナチュラルな名前呼びに怯む私に追い撃ちをかけるかのように、夜久さんの手が私の頬を撫でた。
微睡みの中にいるようなとろんとした目を優しく細めて、口の端を柔らかく上げて。



「……ほんと、かわい」



引き寄せられたのは、一瞬の出来事。

大きな手を両頬に添えられて。
長いまつ毛が、髪の毛が、眉が、すぐ目の前にあって。
いつもこっそり見てた薄い唇は思ってたよりもずっと、柔らかかった。


「……ひえ、っ」


多分、ほんの数秒のキスだった。
心臓がどんちゃん騒ぎを起こしていて、体中の熱がものすごい勢いで顔に集結してきている。

夜久さんはと言えば、重たそうな瞬きを数回繰り返していたかと思ったら突然カッと目を見開いて飛び起きた。



「あ、あれっ、苗字!?」

辺りをキョロキョロ見渡してもう一度私に向き直る。


「なんか今俺、すげーリアルな夢見てたような気がするんだけど……あ、もう休憩終わり?今何時?」
「え、えーと」
「……っていうか、待って、何でそんな顔赤いの?」


そう言う夜久さんの顔もうっすらと赤くなっていて、俯くだけで言葉を返せない私を見て、なんとも言いづらそうに口を開いた。



「なあ、もしかして俺……お前に、さぁ」



夜久さんはそれ以上続けなかったし私は何も言えなかったけど、両手で覆われたその顔が今まで見たことないくらい真っ赤に染まっていたからきっと、 何≠ェあったのかわかっているんだなと思った。


「……嫌な思いさせてごめん。ひっぱたいてくれていいよ」
「そ、それは無理ですよ……」
「あー、そりゃそう、だよなぁ」

夜久さんはもう一度「ごめん」と言ったっきり、すっかり口を閉ざしてしまった。
チラッと視線を上げれば指の間からこちらの様子を伺うように不安気な瞳が覗いていて、何度目かわからないこの胸の高鳴りは勇気を出すのには十分すぎて。


「どんな夢、見てたんですか?」


だってこんなの、自惚れるなっていうのは無理じゃない?


「……わかってて言ってんだよな?」
「教えてくれたら許してあげようかなって」
「っ、お前さぁ」

じとり、私を軽く睨んだ夜久さんの目が伏せられる。
小さく深く息を吐き出しながら、頭をガシガシと掻きながら。

「好きな子に、好きって言ってもらえてそのまま……キス、する夢っ」




「っあは、ははは……っ!」
「なに笑ってんだよもう……」
「すきですよ、もりすけさん」
「なっ……!」

甘く痺れるようなドキドキがくすぐったい。
恥ずかしそうに唇を尖らせているなんとも可愛らしい夜久さんに悪戯っぽく笑ってみせれば。


「……っんとに、かわいすぎ」


両頬に添えられたてのひらの熱。
余裕のない少し怒ったような顔が近づいてきて私はそっと目を閉じた。

end.
2020/05/29
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -