離さないよ、だから、離れないで


部員たちにもみくちゃにされる夜久さんを見るのはこれで二度目だった。
むさ苦しい部室がパーティー仕様になって、夜久さんの周りにはたくさんのお菓子やらプレゼントやらが溢れている。

初めは何が起きてるのか全然、って顔をしていた夜久さんだったけど、それは次第にほころんでいって幸せそうなものになった。
そんな夜久さんが見られただけで幸せ、っていうか、この場に居合わせられたことに感謝、っていうか。

お誕生日をお祝いする気持ちよりも寧ろ、“大好きです”の方ばかり込めてしまった私からのプレゼントを、夜久さんは多分そんなこととは夢にも思わずいつものピカイチスマイルでニカッと笑って受け取ってくれた。
少し悲しい気もするけど、堂々と渡せるのはマネである特権だ、と自分を励ました。


さすがにそろそろ帰らないと見回りのおじさんに叱られてしまうから、と黒尾さんが言うのでお誕生日パーティーはお開きになった。
リエーフくんが「このあとみんなでカラオケとか行きませんか!?パーティーの続き!」と言い出したからドキドキしたんだけど、夜久さんはすぐに首を振った。

「大会まであと何日かしかねえんだぞ。そーいうのは全部終わってからな」


(……まぁ、そりゃ)

その通りではあるんだけど。……あるんだけどさぁ。


みんなで後片付けをしてまだ明るい外に出る。
リエーフくんはまだ遊び足りないのか「じゃあみんなでコンビニ行きましょう!」と声を上げた。

思いきって「そうだね!」と賛同しようとしたとき、急に夜久さんがこちらを向いたので慌てて口を閉ざした。


「一緒に帰んない?」
「え……」
「ええっ!?」

私以上に周りのみんな、というより主にリエーフくんのどよめきの方が大きかった。


「みっ、みんなで帰ればいいじゃないですかぁ!何でマネさんと……ずるいですよぉ誕生日だからって!」
「お前はホントうるさい。……で、苗字。いい?」
「い、いいですけど!いいですかっ!?」
「ぶっふ!」
「ぎゃっ!?黒尾さん汚いですよかかりました……っ!」

半べそで顔を拭うリエーフくんに芝山くんがすかさずティッシュを差し出している。
夜久さんはというと私を見たまま嬉しそうに笑っている。
黒尾さんも海さんも揃ってニコニコしている。黒尾さんのはちょっとニヤニヤに近い。

「じゃあ決まりな。帰ろ」




どういうわけでこんなことになったのか、見当もつかない。
何故か非常に悔しがるリエーフくんや部員のみんなに見送られ、私は夜久さんの隣を歩いてる。
突然の状況に何を話していいのかさえわからず、プレゼントを指さして「何か持ちましょうか?」と言ってみたけどやんわりと断られた。

「今日はありがとなー。準備大変だったろ」
「いえ!みんなでやったので楽しかったですし。それに夜久さんの喜ぶ顔が見られたしこちらこそありがとうございますですよ!」
「何言ってんの?」

何で私今夜久さんの隣を歩けてるんだろう?
何度考え直しても自分の都合のいいように解釈しちゃって困る。
っていうか夜久さんの家こっちじゃないと思うんだけど、もしかして私を送ろうとしてくれているんだろうか?夜久さん、今日は荷物が多くて大変そうなのに。


帰り道を二人でゆっくりと歩きながら、私は尋常じゃないほどドキドキしていた。
みんなからのプレゼントの話や今日の部活の話をしながらも頭の中は夜久さんへのどうして?≠ナ溢れそうだった。

確かめてみればいい。
いっその事、聞いてみようか。

足を止め、意を決して顔を上げた私の少し後ろで私と同じような顔をした夜久さんが口を開いた。


「……ちょっとわがまま言ってもいい?」
「えっ!?ど、どうぞ?」
「やっぱりこれ、持ってくんない?」

これ、とは夜久さんの両手を塞いでいた紙袋。
勿論ですよ!と返せば見るからに軽い方を手渡されて、他の袋を片方にまとめた夜久さんは空いたてのひらを私へと差し出した。

思考が停止した。


「ダメ?」

(わ……っ、うわあ……!)

ぶんぶんと頭を振って同じように手を伸ばす。
安心したような笑みを浮かべた夜久さんが、大きな手できゅうっと私のてのひらを包み込んだ。

こんなことされて自惚れるななんて無理な話だよね?
夜久さんのお誕生日に夜久さんの隣で、夜久さんと手を繋ぎながら一緒に帰ってるんだもん。
緊張と嬉しさと照れくささが交わりあって、口元が多分変なことになってると思う。

こんなにドキドキしてるのって私だけだったりするのかな。
何を話したらいいのかもさっぱりわからなくなって、助けを求めるべく視線を送れば。

「……へ」

耳まで真っ赤に染めた夜久さんが、ふいっと顔を背けてしまった。

「ごめん……なんか、こんなに恥ずかしいとは思わなかった。かっこわりぃ」
「い、いえ!私は嬉しいですしその、けっ、結果オーライでは!?」
「はぁ?」
「それに!夜久さんのことかっこ悪いと思った瞬間なんて今までないですよ!一度たりとも!」
「……ははっ、ほんと何言ってんだよお前は」


トンと軽く肩をぶつけられ、私のドキドキはもう最高潮に達している。
夜久さん、何で一緒に帰ろうって言ってくれたんですか?
何で手を繋いでくれるんですか?

何でそんなに、嬉しそうな顔で笑ってくれているんですか?


「夜久さん、すきです」


言って、しまった。
恥ずかしすぎて逃げ出そうとしたものの、手がしっかりと握られていて逃れられそうにない。

「なんで逃げんの」
「は、恥ずかしいですし!」
「ダメ」
「何故……!」

夜久さんはやっぱり嬉しそうに笑って、私に一歩詰め寄った。

「なぁ。もっかいわがまま言っていい?誕生日だし」
「えっ?はいどうぞ!?」

甘えたようで、縋るようで。
でもどこか緊張した面持ちの夜久さんが繋ぐ手に力を込めた。

「俺だけの苗字になって」


瞬きも忘れるくらいの。
息の仕方もわからなくなるほどの、衝撃。

「ど、どうやって」
「どうやってって……そのままずっと俺のこと好きでいてよ」
「それだけで夜久さんだけの私になれるんですか?そもそもそれ全然わがままじゃ……!」


優しく微笑んだ夜久さんの顔が近づいてくる。
唇が触れる直前、夜久さんが「すげー好き」と囁いたのが聞こえて、すぐに私もです!と返そうとしたのだけど、言葉にならないうちに夜久さんの柔らかい唇の中に消えていった。


(ハッ……!私、ずーっと前から夜久さんしか見えてなかったのでもう既に夜久さんのものだったのでは……!?)
(ハッじゃねえよもーほんと何言ってんだよ勘弁してくれよ……)

end.
2019/08/08
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