あめあめふれふれ、そのままもっと


(はあ……やらかした)

今日は雨が降るからね、傘を持っていきなさいねという母からの再三の注意を聞き流した今朝の自分を呪いたい。
だって朝はあんなに良い天気だったのに。こんなザーザー降りになるだなんて誰が予測できただろう。

……そうですね天気予報士さんはできてましたねっ!!!
私が悪かったですよすみませんね!!!

帰り道の途中で雨に当たってしまい、勿論凌げるものなんて何一つ持っていない私はこうやって坂ノ下商店の前で雨宿りをする羽目になっている。
ちなみに店内にビニール傘は一本も残っていなかった。珍しく放課後残らされたと思ったらこれだもん。本っっ当に嫌になっちゃう。

恨めしく空を見上げたところで止んでくれるような気分じゃなさそうだし、いつまでもこうしていたって埒が明かない。
すでにじっとりと濡れているブレザーでカバンを覆い、ゴクリと唾を飲み込む。
そして勇気を振り絞って危険地帯に踏み入れた。


……のだけど。

目の前にぬっと伸びてきた傘の柄に息が止まるほど驚いた。


「うわっ、びっ……!か、影山くんっ!?」

心臓が今にも飛び出さんばかりにバクバクしている。
同じクラスの影山くんがすぐそこにいて、相変わらずの仏頂面でジッとこちらを見つめたまま何も言わない。

いや、傘はありがたい。ありがたいんだけど、影山くん現在進行形で濡れてるし、その……何か言って??

私の願いが通じたのかそうでないのかはわからないけど彼が短く「ん。」と喉を鳴らした。

「えっカンタ??」
「?影山だけど」
「ご、ごめん何でもない。えっと、なに?」
「なにじゃねえだろ。濡れたら風邪ひく」

当たり前だろボゲ(男バレの子にそう言ってるのをよく見かける)とはさすがに言われなかったけど、口を尖らせてそう言いのけた影山くんはまさにそう思ってますって顔をしている。

「アンタすげーがんばってるだろ部活。雨にあたって熱出してる時間がもったいねえ。ほら」
「ご、ごめんなさい……?でもそしたら影山くんが濡れちゃうんだけど」
「……あ」
「えっ」

盲点だったって顔に書いてある。どいうことだろう。天然……?
もう手遅れなくらい濡れちゃってることに気づいているのかはわからないけど、しかめっ面で最善策を考えているらしい影山くんを見ていたら笑いがこみ上げてきた。
どうやら後先考えないタイプのようだ。

「それならもう一緒に入って帰るしかなくない?なんちゃって」

私が雨に濡れるのもその逆も選べないでいる彼に軽い気持ちでそう言えば、まるで子どもみたいに目をきらりとさせた。

「アンタ頭良いんだな」
「え……いやいやいや、冗談だよ?」
「なんでだよ良い案だろ」
「待って待って一緒に帰るの?」
「アンタが言ったんだろ。早くしろって体が冷える」

きっと影山くんが思い直してくれることはないんだろう。
一緒に帰るってことは相合傘をしなきゃいけないんだけど……意味わかって言ってんのかな。多分わかってないんだろうな。

「……お、お願い、します」

仕方無しにおずおずと傘に入ると私の肩に影山くんの肩が触れる。布越しに体温が伝わるのが究極に恥ずかしくて心臓が爆発しそうだ。

影山くんの反応がないのがおかしいなと思って顔を上げると、何故か困惑気味でこちらを見下ろしている。

「…………何でこんなことになってんだ?」
「こっちのセリフですけどね!?」

やっとこの異様な状況を理解したところで遅いんだけれど。
普段話もしないようなクラスメートがどうしてか肩が触れ合う距離にいて。
柄を握る手がゴツゴツしてるなぁとか髪が柔らかそうだなぁとか意外とまつ毛長くない?とか、彼のことをこんな風に考える日が来るだなんて思ってもみなかった。

ただ一つ言えることは、私側じゃない方の肩がびしょ濡れになってるのを全く気にも留めていない影山くんともう少しこうしていたい気がするのでどうか、このまま雨が上がりませんように。

end.
2019/01/28
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -